「マスター、ご馳走さま。

また来ます」


僕らはレストランを出た。


「送るよ」


僕らはタクシーに乗った。


紗江は下を向いたまま

ずっと黙っている。


僕が話し出した。


「紗江、ディズニーの

パスポート買いに行かないとな。

いつ買いに行こうか」


紗江は黙っていた。


「今度の休みにでも

買いに行こうか」


「うん…」


紗江は少し明るい声で

返事をした。


暫くして紗江の家に着いた。


「じゃあ、帰ったらメールするよ」


「うん… メールしてね」


「必ずするよ」


僕はまたタクシーに乗った。


このまますぐに家に

帰りたくなかった。


「運転手さん、すみません。

さっきのレストランに

戻ってもらえますか」



『カラン カラン…』


「いらっしゃ…

敬太… どうかしたのか?」


「いや…」


「まぁ、座わって…」


「はい…」


僕は一人、カウンター席に

腰を下ろした。


この店は夜はバーにもなっている。


カウンターに座る人は

殆んどがお酒を注文する。


「敬太、いつものでいいか?」


「はい…」


「はいよ」


「ありがとうございます…」


僕はジントニックを

一気に飲み干した。


「もう一杯…」


「どうしたんだよ。

お前が一気に飲むなんて
珍しいな。

紗江ちゃんとの結婚の話しか…」


「はい…」


僕にとってマスターは

心の師である。


紗江の事は全て話している。


「結婚の事で何かあったのか?」


「はい…

実は紗江の父親がお見合いを

決めてきてしまった

みたいなんですよ…」


「そうか…」


「紗江の父親の会社、

経営が上手くいってないみたいで…

相手は取引先の人らしいんです」


「娘が結婚してくれれば

会社が大丈夫って事か…」


「はい…」