「え~、それでは、ホームルームをはじめます。
まずは、本日で教育実習を終える矢上先生から一言」
 葉山の隣に立つ矢上が姿勢を正した。
 
 「えっと、あっという間の二週間でしたが、
皆さんと過ごせてとても楽しかったです。
 お世話になりました。大学を卒業したら
本格的にパリで活動をするつもりです。
 もし、僕が有名になった時には、
是非自慢してください! お世話になりました」

 教室中が笑いに包まれると、教室の後ろから
クラス委員長が花束と色紙が入った袋を
持ち、矢上の前に立つと、
 「先生、お世話になりました。これからも
元気に頑張ってください。これは、皆からの
感謝の気持ちと寄せ書きです」
 と言って花束等を渡した。

 一斉に拍手が沸き起こった……。

 「嬉しいな~。ありがとう」
 喜ぶ矢上の顔を見ながら、夏は悲しい気持ちを
抑えながら必死で拍手を続けた。

 その後、クラス全員で記念写真を撮り、
葉山が伝達事項を話しその日のホームルームを終えた。


 「葉山先生~、写真一緒に撮ってください」
 「私も~お願いします」
 「俺たちも~お願いします」

 校舎を出た矢上の手には、他のクラスからの
花束やプレセントが沢山握られていた。

 教室のバルコニーからその様子を見る
恭介とひとみと夏。

 「凄いね~、まるでアイドルだね」
 「ああ、表と裏の顔を持つアイドルか……」
 「なぁ~んか、この数週間彼に振り回された
気しかしないんですけど……ね、夏」
 ひとみが夏に話しかけた。
 
 「うん……そうだね。振り回され過ぎて……
もう……私、あれ? 何で私泣いてるんだろう」
 涙を流す夏に驚いたひとみと恭介……。

 「夏……泣かないでよ」
 ひとみがそっと夏を抱きしめた。

 「夏……、おまえアイツのこと……
元気だせよ……なんか食うか? おごるぜ」
 学校一のモテ男子、恭介が優しく微笑んだ。


 こうして、矢上慎也先生の二週間にわたる
教育実習が終了したのだった。


 「慎也……荷物はもうこれだけか?」
 葉山が矢上に声をかけた。
 「ああ、それで全部だよ……」
 夏のクラスから贈られた色紙を
手に握った矢上が返事をした。
 

 「これは……?」

 葉山が矢上に聞いた。
 「あ~これ? なんかイメージが湧いてきて
描いてみたんだよ。意外とイケてるだろ?」

 「ふ~ん。いいね~」
 葉山がクスッと笑った。
 「なんだよ。その笑いは~、大体いつも
そうやって俺のことを小ばかにして~、
今日という今日は許さないからな~、俊二~」
 笑いながらとびかかる矢上……
 
 それから二人は、夜遅くまで他愛のない話を
したのだった。


 夜遅く、ベッドに横になり色紙を見つめる
矢上は、無言で色紙をテーブルの上に置くと
電気を消して眠りについた。