美術部の先輩、川内部長と一緒に
二度目の美術館に行くことになった
夏をよく思っていない恭介の心中を
わかることもなく、夏は日曜日を
迎えた。

 「川内先輩、こんにちは」
 「やぁ、上野さん、こんにちは。
じゃあ、行こうか……」
 バス停の近くで待ち合わせをして
並んで歩く二人……。

 「なんか、私服でいると、いつもと
雰囲気が違いますね……大人っぽいと
いうか、大学生みたい……メガネも
いつもとは違うし……素敵ですね」
 夏が川内に話かけた。

 「そうかな? メガネは、学校用と
遊び用に分けてるだけだよ。でも、
褒めてくれてありがとう上野さんだって、
いつもとは雰囲気がちがうよ。
 今日は、一段と可愛い……」
 顔を横にした川内が呟いた。

 彼の普段見せない、大人の雰囲気
と彼が発した言葉にドキッとした夏……
思わず黙り込んでしまう。

 「上野さん? どうしたの?」
 夏の顔を覗き込む川内。
 
 メガネの下からいつもとは
明らかに異なる雰囲気が漂っている。
 夏は自分の身体が足元から熱く
なっていくのを感じると、慌てて
 「部長、今日はなんか暑いですね」
などと、不自然な発言とパタパタと
手で顔を仰ぐ動作をしてみせた。

 「暑いかな? そうは思わないけど。
 だって、まだ四月でしょ? それより、
バスが来たよ。上野さん、走るよ!」

 そう言うと、川内はニコッと笑い
走り出した。
 「あ・はい。あ~、部長待ってください」
 バス停に近づくバスを目指し、夏も
川内の後を追って走り出した。