「夏、夏~、待てよ……」
 夏を追いかけてきた矢上が夏の腕を
掴んだ。

 「え……おまえ、泣いてんの?」
 夏の目に浮かぶ涙を見た矢上が呟いた。

 「泣いてない!」

 「泣いてるじゃん……。ごめん、ほんっとにごめん。
別に泣くことないじゃんか……どうした」
 
 「わかんないよ……矢上ッちからの誘いに
少し嬉しくて……用事の内容がしょうもなくて……
それに、教育実習あと数日で終わるし……
今になって色んなことが頭の中でグルグル回り
だしたら……急に悲しくなってきて……
矢上のくせに……矢上のくせに……うぇ~ん」
 
 夏が泣き出した……。
 
 まくし立てるように一気に自分の感情を
溢れさせた夏に驚く矢上……。

 「夏……ありがとうな」
 一言だけそう呟いた。

 夏が落ち着くのを待って、
矢上が再び口を開いた。

 「夏……俺、今週の金曜日で教育実習が
終わるじゃん。で、日曜日には俊二の家を
出て、下宿先に戻るんだけど……。
 だからさ、土曜日、会えないかな?
ほら、この前の約束覚えてる? 」

 「二人だけの秘密を守る代わりに
なんかおごれってやつ?」

 「そう……」

 「わかった。土曜日……なんかおごる」

 「ありがとう……」

 矢上が優しく微笑んだ。