玄関で矢上を見送る夏……
 「じゃあな、おじゃましました」
 「うん……あっ、矢上ッち」
 夏が矢上を呼び止めた。
 「なんだよ……」
 「あの……昨日から……その……
色々とありがとう……」
 
 「あ~、うん。それはどうも……」
 「それで……お願いなんだけど」
 「なに……?」

 「昨晩のこと……みんなには言わないで
ほしいん……だけど……」

 「え? なんで?」
 「その……なんて言うか、誰にも知られたく
ないっていうか……ふたりだけの秘密に
しておきたいというか……」
 下を向く夏。

 「ふたりだけの秘密か……
 わかったよ。誰にも言わないよ」
 「本当? 約束だよ……」
 
「ああ、約束するよ……
夏と俺のふたりだけの秘密だ……」

「ありがとう……」
 夏が嬉しそうに微笑んだ。

「その代わり……」
「その代わり?」

「口止め料として、今度なんかおごれよな」
矢上は笑いながら玄関を開けると、
葉山の家に戻って行った。

 右手を胸にあて、玄関に立つ夏の表情は、
穏やかで……優しさに満ち溢れ、
まさに、『恋をした女の子』そのものだった。