「あ~、苦しいな……電気つかないし
真っ暗闇だ……なんかふわふわするな~」
 呟く夏……。
 熱で視界がぼやけている彼女にとって
停電中の暗闇は、まるで宙に浮いている
感覚だった。

 ドンドンドン……。
 玄関のドアを叩く音がした。
 音がする方向に導かれるように
暗闇をふらふらしながら壁伝いに歩く夏。

 ドアを叩く音が鳴りやむと同時に
外から涼しい風が吹き込んできた。
 懐中電灯が夏の顔を照らすと、
「夏……?」
 矢上の声に安心した夏が、
「矢上……」
 と呟くと、矢上の身体に倒れ込んだ。
 倒れ込む夏を受け止めた矢上……

 「夏? おい、夏? どうした?」
 と耳元で夏を呼ぶ声を聞きながら、
夏は目を閉じた……。

 暗闇の中、矢上が落とした懐中電灯の
光りが白い壁を照らし、その反射光が
辺りをほのかに照らしていた。