ブブブ……。
 夏のスマホが鳴った。
 「もしもし? お母さん? どうしたの?」
 電話の相手は九州に旅行中の夏の母親だった。

 「夏~、そっち大丈夫? 
 こっちでも、ニュースになってるわよ」

 「うん、雨がひどくて……あと、風も出てきた。
 そっちは大丈夫なの?」
 「こっちは何とかね。雨は降ってるけど……。
 しかし、困ったわね……」
 
 「どうしたの?」
 「この悪天候で、飛行機……飛ばなくなって……
 だから、お父さんとお母さん、
今日は帰れなくなっちゃった……」

 「え……そうなんだ」
 「夏、一人で大丈夫?」
 「う、うん、大丈夫だよ。私、もう高2だよ。
念のため、食料と乾電池準備してるから……」

 「そう、なら大丈夫だね。 
 それから、お願いがあるんだけど」

 「何?」

 「庭に出してある、植木鉢を玄関に入れて
おいてほしの。それから、風で倒れないように
物干し台を横にしておいて……」

 「わかったよ。へっ、くしゅん……」
 「あれ? 夏、風邪ひいてるの?」
 「大丈夫だよ……」
 「あなた、すぐ熱を出すから気をつけなさいよ」
 「はい、はい」

 そう言うと、夏は母との会話を終了させた。

 窓の外は、どしゃ降り……。
 そして、午前中とは異なり、雨粒が風で横に
スライドをしている。

 「わぁ~、益々ひどくなってきたな……
16:00か……早めに作業をしておこう……」
 と言うと夏は玄関に脱ぎ捨てていた
レインコートに再び袖を通し、母親から
頼まれた作業に取り掛かるため、玄関のドア
を開け庭先へと歩いて行った。