「わぁ~すごいな。この色使い。
 こんな色どうすればでるんだろう?
 あっこっちも、この世界観凄いな~」
 展示してある作品に只々、驚きの声を
発する夏……。

 その時だった……

 「う~ん、わからん。この絵のどこが
凄いんだ? どこかのガキが描いたような
落書きのような模様……さっぱりわからん」

 耳を疑うような声が聞こえ、夏は思わず
声の主の方向に目を向けた。

 そこには、大学生くらいの首から『スタッフ』と
記載された名札を下げたバイト生らしき男性が
立っていた。

 バイト生らしき男性は、夏の視線に気づくと、
 「何だよ? あ・どうかされましたか?
 お客様」
 明らかに不慣れな言葉を発っした。
 あっけにとられる夏も、
 「いや、美術館ではあまり耳にしない
言葉を言われるな~って思って」

 「え? 何で? ってか、美術館では
あまり耳にしない言葉って何だよ。
あ、どういう意味なんでしょうかね? お客様」

  明らかに挑発的な男性に、
少しイラっとした夏も思わず、
 「だから、芸術鑑賞は、各自の感性で
観るものだから……あなたみたいな言い方は
よくないよ……」

 「各自の感性なんでしょ? じゃあ、俺の
感性は、この作品をこのように捉えても
自由じゃん。ちがう? お客様~」

 「むむむむ……」

 勝ち誇ったような表情の男性に、
何も言えなくなった夏。

 静まりかえった美術館内に響く
夏と男性の声……。

 夏の声を聞いた恭介が、夏のもとに
走り寄って来た。

 「夏? どうしたの?」
 心配そうに夏の顔を見た恭介は、
彼女の前に立つ男性をジッと見つめた。
 
 「なんだ、男連れかよ。あんたも大変だね。
こんな、くそ真面目そうな女と一緒で」

 「え? なんだよその言い方、なに絡んで
きてんだよ。」
 恭介の顔色が変わった。

 「恭介……もういいよ。大したことじゃないの。
本当に……行こう」
 夏が恭介の腕を引っ張った。

 「お客様、どうかなさいましたか?」
夏と恭介と男性の前に、背広姿の男性が
近寄って来た。
 
 背広姿の男性は、三人を見ると、
 「矢上君、こっちに来なさい……」
と微笑むとバイト生らしき男性を連れて
その場から歩き去った。

 その光景を見ながら、恭介が夏に言った。
 「失礼だよな。あんな言い方、アイツきっと
厳重注意されるよ。お客に向かってあの口の
聞き方。あ~、もう最悪だよな。な? 夏」

 「うん、本当にあんな人が美術館の学芸員
だなんてね……驚いた」

 二人が言葉を交わしていると、ひとみが
二人のもとにやって来た。

 「何? どうしたの? 何かあった?」
 「ひとみちゃ~ん、聞いて~。あのね……」
 夏は、ひとみに抱きついた。

 「ん? どういうこと?」
 ひとみが恭介の顔を見ると、恭介は
両手を上に向け両肩を上げた。