「え、俺、ここで寝るの? ひとりで……」
 恭介は、客間に敷かれた布団を指差して言った。

 「うん……」
 ニコニコ顔の夏を見た恭介は夏の隣に立つと、
耳元で……
 「俺が、さっき余計なことを言ったからか?」
 と囁いた。

 「ちがうよ。お父さんとお母さんがね、
恭介をお泊り会に参加させる条件として、
寝る部屋は別にしなさいって……」

 「え~、なんで? 俺なんもしないよ」
 「あたりまえじゃん。とにかく、寝るときは別よ! 別」
 ひとみが言った。

 「え~、仏壇の前じゃん……俺一人ここ……」
 下を向き溜息をつく恭介。
 
 「じゃ、私と夏は夏の部屋で寝るから……
 恭介君はここで! ごゆっくり。夏、行こう」

 「それじゃ、恭介おやすみ……」
  恭介にそう告げると、夏とひとみは二階への
階段を上って行った。


 夏の部屋で布団に入るひとみとベッドに
横になる夏。
 ひとみが夏に話かけた。
 「さっきの恭介君の顔、面白かったね。
もしかして、修学旅行みたいに横一列で
川の字で寝るつもりだったのかな?」

 「案外そうだったりして……」
 夏がクスッと笑った。

 「でもさ、学校一のモテ男、梶本恭介と
お泊り会してさ、一夜を共にしたって
知られたら、学校中の女子を敵に回すことに
なるんだろうな~」
 ひとみが呟いた。

 「一夜を共にしたって……ひとみちゃん言い方」
 「え、ああ、ごめん~。でも、夏は恭介君のこと
好きじゃなかったの?」
 
  ひとみからの問いに少し間をおいた夏が
 「あまりにも、近くにいすぎた存在だったから
そういう目で見たことなかった。いつも傍にいて
くれる存在だったから……これって、贅沢だよね」
 夏がそう答えるとひとみは、
 「本当。夏は贅沢だよ……おやすみ」
 と言うと布団を被り目を閉じた。

 夏は、カーテン越しに聴こえてくる雨音を
聞きながら目を閉じるとそのまま眠りについた。