昼休み中庭で、
明日に控えた『お泊り会』の
打ち合わせをする夏、恭介、ひとみ。
 「なんか、ドキドキするね」
 ひとみが言うと、
 「うん、うん、俺もドキドキする」
 恭介が言った。
 「え? なんで恭介がドキドキするの?」
 夏が恭介に聞くと、
 「え~、だってさ、女子の家で
お泊り会って、普通あり得ないだろ。
俺、友だちに言えないよ~。
 夏の家で、夏とひとみちゃんと
夜をともにするなんて……」

 「ちょっと~恭介、言い方、言い方が
おかしい……」
 夏とひとみが訂正する。

 楽しそうに話す三人を職員室の
窓から見つめる葉山……。

 すると、教頭先生が葉山に声をかけた。
 「葉山先生、ちょっといいですか?」
 「はい、なんでしょうか?」
 教頭の近くに歩いていくと、

 「葉山先生、急で悪いんだけど、
明日から九州で行われる研究大会に
桜井先生の代わりに出席してもらえないだろうか」

 「え? 僕がですか?」
 「実は、桜井先生が急に体調を崩されて」
 「動員がかかっているので、当校からも
必ず一名参加しないといけなくて……
その……葉山先生なら独身なので身動き
とれるかな……と思って」
 教頭がすまなさそうに言った。
 困った様子の教頭を見た葉山は、

 「わかりました。でも九州だと前入りですね。
夜の便に乗れば、今日中にはホテルに入れますね」
 と言った。
 
 「葉山先生ありがとう」
 教頭は葉山にお礼を言うと自席に戻って
行った。

 
 放課後、美術室では……
 「あれ? 葉山先生は?」
 夏が美術部員に聞いた。
 「葉山先生は、今日は部活お休みみたい」
 そう答える女子部員。

 「そうなんだ……」
 夏は首を傾げながら、絵筆を持つと、
制作を始めた。