川内の袖を掴み、美術室を出た夏は
凄い勢いでズンズンと廊下を歩いて行く。
 その勢いに只々圧倒されながら、
連れられていく川内……。
 「う、上野さん? どうしたの?」
 彼の呼ぶ声に、我に返った夏は、
掴んでいた川内の制服の袖を慌てて話した。

 「あ……部長、す・すみません……
えっと……その……申し訳ありません」
 頭を深々と下げて謝る夏。

 そんな彼女の姿を見た川内は、
 「上野さん……お腹すいてる?
 僕、ぺこっぺこ。行こう……」
 と言うと、夏の前を歩き出した。


 彼に案内されて、到着したお洒落な
カフェ……。
 土曜日の午後だけあって、
大勢の人で混み合っていた。
 店先で少しだけ並ぶと、店員が
二人を店内の席に案内した。

 制服姿で、向かい合って座る川内と夏。
 夏は店内をきょろきょろと見渡した。
 「上野さん? どうしたの?」
 川内が聞くと、正面を見た夏が、
 「みんな……お洒落な服着てるなって
思って……。制服……私達二人だけ」
 と呟いた。
  夏の顔を見た川内がクスッと笑うと、
 「その制服……凄く似合ってるから
いいんじゃない? それとも、私服がよかった?
 そうだな~、じゃあ、今度は私服姿でもう一度
来る? 僕と一緒に……」

 いつもとは異なる川内が発した言葉に、
夏は少し驚いた。
 「ん? どうしたの?」
 彼が夏に聞いた。
 「い、いや……部長が……いつもと雰囲気が
違うっていうか……そんなこと言うんだなって」

 「そうかな? あっ! 
でも一応無理してるかも……
 だって、好きな人と二人っきりでランチなんて。
 制服デートみたいでしょ?」

 「デ・デ・デートぉ~」
 夏が椅子から立ち上がった。
 店内の客から一斉に視線を浴びる夏。

 「上野さん……Aランチでいい……かな?」
 川内の言葉に、彼の顔を見ると、
 「は、はい。それで……」
 と言い腰を下ろした夏は、ガラスに注がれた
水を一気に飲み干した。

 その後、運ばれて来たAランチ……、
川内がサラっと言った、『好きな人とのランチ』、
『制服デート』という言葉に、
 美味しそうな料理がどこにはいっていったか
わからないような状況の夏であった……。