「はい、今日はここまでにしましょうか」
 葉山が皆に声をかけた。
 彼の言葉を聞いた川内、夏、ひとみは
片付けを始めた。
 「上野さん、これからどうするの?」
 川内が夏に聞いた。  
 「えっと……特に何もないですけど」
 「そう……じゃあ、一緒にお昼食べない?」
 「お昼ですか? え~と」
 返事に困る夏を見た川内はニコッと笑うと、
 「二人がイヤなら、村尾さんも誘ってさ」
 「イヤ……とかじゃ全然ないので……
その……先輩と二人っきりなんて……」
 夏が下を向いた。

 「ふふふ、やっぱり、可愛いな~。
うん、決めた! 二人で行こう!」
 「え? 二人で?」
 「うん。だって、イヤとかじゃ全然ないんでしょ?」
 川内が夏の目を見て優しく微笑んだ。

 「夏~、ごめん。私、先帰るから……」
 ひとみが夏に話しかけた。
 「え? ひとみちゃん、なんで?」
 「今日、これから両親と一緒に
親戚の家に行くことになってて……
 じゃあね。部長、葉山先生、矢・上先生、
お疲れ様でした~」
 そう言うと、ひとみは美術室を出て行った。

 「最近の高校生はいいね~。ラブラブじゃん。
 部活終わったら一緒にランチなんて……。
 羨ましい限りだぜ」
 画材を片付けながら、矢上の声がした。

 「矢上先生、からかわないでくださいよ」
 川内が矢上に話しかけた。

 「そうだぞ。矢上先生……」
 葉山も矢上に話しかけた。

 「は~い。わっかりましたぁ~」
 そう言うと矢上は夏のもとに歩み寄り、
耳元で、
 「いいのか? 梶本恭介がヤキモチやくぞ」
 と囁いた。

 「え? 恭介は、仲がいい幼馴染だから」
 夏が矢上の顔を見て言った。
 「ふ~ん。じゃあ、本命は川内君なんだね」
 矢上が夏の顔を見てニヤっと微笑んだ。

 「は? それは……」
 慌てる夏に矢上が、
 「あれ? 違うの? 俺はてっきり……」
 
 「だから……その、や・が・み・先生、
余計なお世話です。
 生徒のことに首突っ込まないでください!

 夏が少しだけ、語気を強めると、川内の
制服の袖を引っ張り、
 「部長、行きましょう! 私、お腹ペコペコです」
 と言うと出入り口でペコっとお辞儀をして、
そのまま美術室から出て行った。

 夏と川内の二人を見ながら、微笑む矢上に、
葉山が言った。

 「慎也、どうした? 彼女にえらく絡むな……
さては、気に入ったな……」

 「ち、ちがうよ。暇つぶし、からかうと、
ムキになるから……面白くて……つい……」
 
 「そうか。でも、彼女は僕の大事な
生徒だ……あまりいじめないでくれよ」

 「ああ、わかったよ。それより、俺等も
飯食い行こうぜ……腹へった……」

 「そうだな」

 と言うと葉山と、矢上も美術室を後にした。