「ちょっと~、朝から衝撃過ぎて
授業が全然頭に入ってこないんだけど」
 屋上で、お弁当を広げたひとみが言った。
 
 「俺もだよ……驚たな~。でも、
一番、驚いてショックを受けてるのは、
夏だよ……な~、夏」
 恭介が夏の顔を見ながら、パンをかじる……。

 「う~、う~、あ~、なんでこういう展開に
なるの? 最悪! 最悪だ~」
 そう言うと、お箸でお弁当箱からウインナーを
つまむと、口に入れ込んだ……。

 「まぁ、2週間の辛抱だからさ、耐えるしかないよ。な! 夏……」
 恭介が夏の肩をポンと叩いた。

 その時だった……

 バタン……キキキ~。
 屋上のドアが開いた。

 三人がドアの方を見ると、
 両手を天高く上げた矢上が現れた。

 「う~、やっぱり、晴れの日の昼休みは、
屋上に限るな~。 ん? おまえ等、ここで
メシ食ってんの? 相変わらず仲いいんだね~」

 驚いた三人が立ち上がる……

 「どこで食べてもいいでしょ」
 恭介が矢上に言った。
 「うぁ~、カッコイイね! 
流石! 学校一のモテ男くん!」
 「はぁ~、何言ってんのあんた……」
 「恭介、やめなよ……」
 ひとみが止めにはいるが、矢上の
悪態は止まらない……。

 「そう言えば……彼女、他の男と美術館に
来てたぞ! それも、おまえと行った翌週に……
君、いいようにもて遊ばれてるんじゃない?
ほら、君、イケメンだし……」

 「な……んだと! 人が大人しく聞いてれば
もう一度言ってみろよ!」
 「おっと~、暴力はいけないよ! モテ男くん」
 詰め寄りそうな勢いの恭介から
距離をとった矢上。
 
 「あなたね……本当に失礼な人。
いくら、葉山先生の従弟だって、
許せないんだから!」
 怒りが頂点に達した夏が、矢上目掛けて
突進する……。

 「いいのかな~。俺にそんな口聞いて……
俺、教育実習中は、先生なの! 
そ……君たちの先生(仮)だけどね…… 
だから、先生にそんな態度をとっちゃだめ
だよ~。上野夏さん……俺を先生と呼ぶんだよっ!」
 
 「う……」
 矢上の言葉を聞いて思わずブレーキをかけた夏。

 「そう、そう。いい子だね~。流石、俊二の教え子だ」
ポケットに両手をつっこみ、前傾姿勢になった矢上が夏の顔を覗き込んだ……。

 「あっ! いたいた! 矢上先生~。お昼一緒に
食べませんか~?」
 クラスの女子生徒が数名矢上に声をかけた……。
 その声を聞いた矢上はくるっと向きを変えると、
満面の微笑みで、
 「え? 私もいいんですか? 嬉しいな~」
と態度を一変させた。
 
 「では、上野さん、梶本君、村尾さん、
後ほどホームルームで……」
 と言い残すと、ドアの前に立つ数人の女子の
もとに歩いて行った。

 「なんなんだよ。あいつは……超ムカつく」
 「本当……あの態度の変わりよう……。
夏、大丈夫? 夏?」
 ひとみが夏の顔を覗き込むと……

 「何が、先生と呼ぶんだよだ!
あの男……覚えてろよ~」

 怒りに震える夏であった……。