朝、教室内の席に座り、夏はひとみと
恭介に昨夜の出来事を報告する。

 「え~、それって本当?」
 目をまんまるくして口に手を当て驚くひとみ。
 無言で腕を組み考え込む恭介……。

 「ちょっと、ちょっと~何それ……
この前の超失礼な学芸員が、まさかまさかの
葉山先生の従弟って本当の話なの?」

 「本当だってば……もう、驚いて……
だって、上半身裸で出て来るし……」

 「ん? 裸ってなんで?」
 恭介が夏の顔を見る……
 「なになに~裸って……キャ~」
 興奮するひとみ……
 ひとみの声を聞いたクラスメイトから
一斉に注目を浴びる三人。

 「ちょっと~、ひとみちゃん、声大きい」
 人差し指を立て口を尖らす夏は、
立ち上がると、教室にいたクラスメイトに
苦笑いをしながらペコっと頭を下げた。

 「……にしても、葉山先生が夏のお隣さんで」
 と恭介が言いかけた時、教室のドア開くと、
生徒名簿を脇に挟めた葉山が入って来た。

 葉山俊二……
 夏のお隣さんに住む美術教師で美術顧問、
 そして、夏とひとみと恭介の担任……

 「はい、皆さん、席について……」
 爽やかに恭介が口を開いた。
 「おっと~、噂をすれば……」
 恭介とひとみは夏の席を離れ、
自分の席に戻る。

 「皆さん、おはようございます」
 「おはようございま~す」
 元気な生徒の声が教室に響く。
 ニッコリと笑う葉山……

 「いい返事ですね……それでは、
出席を取ります……」
 葉山が出席簿を開くと、
順々に生徒の名前を呼び
出席を取り始めた。
 
 数分後、出席を取り終えた葉山は
出席簿を閉じると、笑顔で言った。

 「さて……今日は皆さんに、
教育実習生を紹介しますね。
 入って来てください」
 と言って、葉山が教室のドアの方向を見た。
  
 ガラガラガラ……
 と教室のドアが開いた。

 「キャ~、うそ、イケメン……」
 の声とともに、クラス中がざわついたが、
夏とひとみと恭介の反応は明らかにちがった。

 「え……」
 「うそ……」
 「マジか……」

 教室に入って来た人物が葉山の隣に立つと、
 葉山が、教室全体を見渡し、

 「紹介します。今日から二週間、
教育実習に来ることになった矢上慎也君だ。
 皆さん、よろしくお願いしますね。
 ちなみに、矢上君の専攻は美術、
美術部の補助もしてもらうことに
なってますので……」

 葉山の言葉に固まる夏……
 夏の顔を見るひとみと恭介……

 葉山から、紹介された彼は……
 優しく微笑むと、
 「矢上慎也と申します。これから二週間、
仲良くしてください。よろしくお願いします」
 と挨拶をした。

 「キャ~、カッコイイ!」
 クラスの女子から黄色い声が上がった。

 突然現れた、超態度の悪い学芸員……
 その名は、矢上慎也……
 不幸にも、彼は担任葉山の従弟……

 ドゴン、ドゴン、ドゴドゴドゴ
 心臓から変な音を感じる夏……

 教室を見渡す矢上……
 夏を見つけると、フッと鼻で笑った……。

  え~、なんで、なんで、なんで~
 心の中で叫ぶ夏だった。