玄関で靴を脱ぐ夏が葉山に
「これ、お母さんから。カレーだよ」
「おっ! カレーか……俺、おばさんの
カレー大好物。あっ! 悪いけど
キッチンに置いてくれるかな」
 
 「わかりましたぁ。ん? 誰かいるの?」
玄関に並ぶ男物の靴を見た夏が葉山に聞いた。
 「ああ、俺の従弟が泊まりに来てるんだ。
今、風呂に入ってる……」
 「へぇ~、先生の従弟か……」
 夏は、リビングを開け、キッチンのコンロの上に
鍋を置いた。
 「これでよし! じゃあ、先生帰るね」
 夏がリビングを出ようとしたその時だった。
 
 リビングのドアが開くと、タオルを首から下げ
上半身裸の男性が立っていた。
 「キャ、キャア~、裸~」
 悲鳴を上げる夏に驚いた葉山……とその男性。
 「夏、どうした?」
 葉山が声をかけた。
 両手で両眼を覆った夏が、
 「せ、先生、裸……男の裸が……」
 と、動揺した夏が葉山に助けを求めた。

 「夏~、今さっき言っただろ?
 これは、俺の従弟の慎也だよ。
 それに、上裸体はデッサンで慣れてるだろ?」
 葉山の声を聞いた夏は、恐る恐る
 両眼を覆っていた手を取った……

 が、次の瞬間……

 「う…わぁ~、あなた、あなたは~」
 と大声で叫んだ。
 「え? どうした?」
 葉山が交互に夏と従弟の慎也の顔を
見つめた。

 「やぁ、また会ったな……女子高生」
 「あなたは、超失礼なバイトらしき学芸員!」
 驚く夏が指をさした。

 「おまえ、もしかして俊二の教え子だったの?
 へぇ~、教師家の隣に教え子が……ふ~ん」
 好奇な視線を夏に送る男に……

 「もう! 本当に失礼な人!」
 夏の怒りのボルテージがあがった。
 それを見た葉山が二人の間に入ると、
 「二人とも知り合いだったんだ」
 と言った。

 「違います!」
 「ちげーよ! こんなガキ」

  ふたりは同時にこう答えた。

 「はい、はい、二人とも落ち着いて」
 葉山はリビングのソファーを指差して
座るように言った。
 渋々、隣同士に座る二人……
 
 「はい、じゃあ、改めまして、
矢上慎也……俺の従弟で、美大の
学生……美術館にはバイトで入ってる。
で、こっちは、上野夏ちゃん、
見ての通り、うちのお隣さんで、
僕の勤務先の高校に通う女子高生、
ちなみに、僕が顧問を務める美術部の
部員だ。はい、二人とも会釈をして!」

 互いを睨み合ったふたりは、
 そのまま会釈をした……。

 「はい、よろしい。じゃ、そんなことで
夏、慎也のことよろしくね……」
 葉山が優しく微笑んだ。

 「よろしくね……?ってどういう意味?」
 「まぁ、まぁ、そのうちわかりますよ」
 
 彼の言葉に疑問を持った夏だったが、
そのまま葉山の家を出て自宅に戻った。

 夕食を済ませ、二階の自室に戻った夏……。

 あの失礼な男が……
 二度と会わないであろうと
 思っていた男が……
 まさか、葉山の従弟とは、
 衝撃過ぎて、頭の中が大パニックを
起こす夏。

 なんだ、この展開は……
 まるで、ドラマのワンシーンのような
シチュエーション……
 でも、普通はトキメキ、
キュンのはずなんだけど~

 最悪じゃん~。
 夏がベットの上でジタバタと身体を動かす。

 「夏~、お風呂はいりなさい~」
 階段下から夏を呼ぶ声が聞こえた。
 ベッドから起き上がると
 「は~い」
 と返事する夏だった……。


 夏の周りにいる
 彼女が胸キュンする三人の男性……

 お隣さんの、美術教師で大人の男、葉山俊二、
 学校一のモテ男、仲良し幼馴染の梶本恭介、
 美術部部長で今日、夏に告った、メガネ男子の
 川内浩……。

 そして…… プラス・ワン。
 突然現れた、超失礼な男、葉山の従弟、
 矢上慎也……。

 夏の周りには、個性豊かな四人の男たち……

 このドラマのような展開に戸惑う夏であった。