「もう、ひとみちゃんたら、意地悪い」
 ブツブツと呟きながら自動販売機に小銭
を入れる夏。

 「あっれ~? 上野さん、ご機嫌斜めだね」
そう声をかけてきたのは、夏の所属する美術部の
部長、川内浩。

  「あっ! 川内部長」
 慌てる夏に川内が言った。
  「上野さん、どうしたの? 何かあった?」
 メガネの下から見える優しい眼差しから
伝わってくる彼の性格が、夏の心を和ませる。

  「部長~、聞いて下さいよ。ひとみちゃんが」
  「ひとみちゃん? ああ、村尾さんのことね。
 彼女がどうかしたの?」
  「恋をしたことがあるのかって聞いたん
 ですけどね。私が毎日同じことを聞くもんだから、ウザがられて」
  小さな溜息をつく夏。

  そんな、彼女の顔を見た川内は、優しく微笑むと
 「そうか……。上野さんは、恋をしたいんだね」
  と呟いた。

 「え~っと、改めてそう言われると、照れますね」
 少し頬を赤らめる夏。

  その時だった……

 「恋が何だって?」
 声が聞こえた。

 夏と川内が振り返ると、教科書を脇に挟み
 コーヒー牛乳のパックを口元から離し
細身のイケメンが立っていた。

 「葉山先生……」
 夏がそう呟いた。

 葉山俊二……
職業、美術教師および美術部顧問。

 そして、夏の家の隣に住む……
お隣さんだ……。

 「上野さん、恋もいいけど、今度のコンテストに
応募する作品、出来てるのかな?」

 「いえ……まだですけど……」
 「そうだよね~。頑張らないとね~」
 「はい……。がんばり……ます」
 「よし! いい子だ!」
 そう言うと葉山はその場から歩き去った。


 上野夏……。
恋に憧れる彼女の周りには、
学校一のモテ男、幼馴染の
梶本恭介。

 美術部部長のメガネが超似合う
川内浩。

 細身のイケメン教師
美術部顧問、そして夏のお隣さん
葉山俊二。

 そして、もう一人……
彼との出会いが彼女が憧れる
『恋』をかき乱されることになるとは、
この時はまだ誰も知らなかった。