「上野さん、もう少し右を見て……
あっ、そうそうそんな感じ……」
 美術部部長の川内の絵のモデルをすることに
なった夏……。
 自分の制作の合間をぬって、川内の制作に
協力する……。
 川内は夏を見つめながら、ゆっくりと
デッサンを始める……

 普段は、モデル役をする場合、色んな人からの
視線を受けることに慣れているはずの夏で
あったが、ひとみと恋バナをして以来、
彼に、見つめられると、心臓の鼓動が
物凄い速さでドクドクドクと鳴るのが
聞こえてくる。

 キャ~、やっぱりだめだ……。
 部長が私をじっと見つめてる……。
 も~無理だ……。

 夏が椅子から立ち上がる……。
 「えっ? 上野さん、大丈夫?」
 「え? あ、ああ、大丈夫です」
 顔を赤らめた夏が椅子に座り直した。

 デッサンの手を止めた川内が、
優しい眼差しで、
「上野さん、疲れた? ごめんね、
同じ態勢は疲れるよね? 今日はこのへんで
終ろうか?」
 そう言うと、夏の手を取り椅子から立たせた。
 メガネの下から覗く優しい眼差し……。
 癒し系ともとれる雰囲気を醸しだす川内に
夏のハートはドキドキ全開……。

 「じゃあ、今日はこれでおしまい。
ありがとう上野さん……」
 そう言うと画材を片付け始めた。

 彼の姿を見た夏も、帰り支度を始めた。


 陽も暮れた頃、通学路を歩く川内と夏。
 川内が夏に話かけた。
 「上野さん、梶本君とは仲良しなんだね。
夜に電話とかしてるの?」
 「え? あ、はい。たまにですけど」
 「上野さんにとって梶本君は特別な人なんだ」
 「特別って、ただの仲良し幼馴染ですよ」
 「ふ~ん。そうなんだ。でも、彼はそうは
思っていないみたいだけどな……」
 「あ~、それはどうでしょうね……」
 焦る夏が返事をごまかすと、
 隣を歩いていた川内が真顔になって
 夏に言った。
 
 「上野さん、もしよかったら、俺も
上野さんの特別になりたいな……
無理にとはいわなけど……」

 「は? 部長いきなり……どうしたんですか?」
 「この前さ、彼が美術室に君を訪ねて来たんだ。
その時にさ、なんか宣戦布告されたみたいで……
だから、俺も負けたくないって思って。
 あっ、でもあんまり大袈裟に考えないで。
モデル……が終ってからでもいいし、
絵が完成してからでもいいから、返事待ってるね」

 「部長……」
 立ち止まる夏に、川内は、
 「じゃあ、上野さん、また明日ね」
と言うと爽やかにその場を歩き去った。

 川内の恭介とは全く異なる告白パターンに
驚く夏……。
 なんだこれ……まるでドラマのような展開は……
そう呟くと、遠くに見える自宅の玄関に向かって
直進したのだった。