「え~っとどこだ? あっ、あった
葉山先生~、ありました~」
 倉庫内で脚立に乗った夏が少し離れた
場所にいる葉山に知らせる。

 「そうか~、じゃあ、それを順番に
床に降ろしてくれ! 脚立から落ちるなよ~
 俺も、こっちが済んだらそっちに行くから」

 「は~い。わかりました」
 葉山に返事をすると夏は、棚に置かれている
美術教本の入った箱を一つひとつ
床に落とすように降ろしていく。
 
 「この……箱、意外と重いな……」
 
 「上野、こっちは終わったぞ。
そっちは……」

 「あっ、先生、この箱意外と重いで……す。
キャ~、落ちるぅ~」
 脚立の上でバランスを崩した夏が、
スローモーションのように床に落ちかける……
 
 脚立から落ちる夏を見た葉山は、
 「夏!」
 と叫ぶと、夏のもとに駆け寄り、
脚立から落ちてくる彼女を、間一髪、
床から数十センチのところで受け止めた……。

 ドサッ……。

 葉山の腕の中に落ちてきた夏を、
葉山が抱きしめた……。
 「う……」
 「先生……? 大丈夫……ですか?」
 葉山の腕の中で夏が呟いた。

 「痛って~、腰にきた……」
 葉山の言葉を聞いた夏は、葉山の胸元から
顔を離すと、
 「先生、怪我したの? 腰? ぎっくり腰?」
 と目をまんまるくして言った。
 
 「ちがうよ。俺、意外と鍛えてるから……
打撲だよ。ただの打ち身ね……。それより、
夏、怪我はないか? ん?」

 葉山が夏の前髪をかきあげると優しく
呟いた。
 彼から香るほのかないい匂い……。
 葉山に前髪をかきあげられ、近づく彼の顔に
驚いた夏が、顔を横に背け立ち上がり、
 「だ、大丈夫です。それより、先生、名前!」
 と言うと、床に肩膝を立てたまま
座り込んでいる葉山が、
 「名前? 」
 と不思議そうな顔をした。

 「葉山先生、私の名前、さっきから呼び捨てに
してる。『夏』って……」
 顔を赤めた夏が葉山に指をさしながら言った。

 「あ~、そうか。ごめん、ごめん。ついね……。
だって、夏が……あ、ごめん。
 君が、脚立から落ちていくのを見たら咄嗟にね、
守らなくちゃって思って、でも、何もなくてよかった」

 そう言うと葉山は夏の前に立ちあがり、
 「でも、心配してるのは、どうやら
僕だけじゃなさそうだ」
 と夏の耳元で葉山が囁いた。

 「え?」
 「ほら、向こうを見てごらん……」
 葉山が入り口の方に視線を移すと、
そこには、モテ男くんの、恭介が立っていた。

 「恭介……」
 思わず夏が呟いた。