その日の夜……
 ブブブ……と夏のスマホに着信が入る。
 彼女がスマホの画面を見ると、恭介からのもの。
 夏は、画面をスクロークするとスマホを
耳元にあてた。

 「もしもし、恭介? どうしたの? 
こんな時間に」
 「あ……、夏、ごめんな。夜遅くに……
寝てた?」
 「ううん。大丈夫だよ。どうしたの?」
 「いや……。川内先輩との美術館、
どうだったかな?
って思ってさ。楽しかった?」

 「なに、そんなこと? あ~、楽しかったのは
楽しかったんだけどね……」
 「なんかあった?」
 「う……ん、瞬間的に嫌なことがあった
くらいかな」
 「嫌なこと? なんかされた?」
 「いや、ほら、この前、恭介とひとみちゃんと
美術館に行った時にあった、失礼な学芸員さんと、
また遭遇して……」
 「アイツとまた会ったんだ。で?」
 「またまた、失礼な言葉を浴びせられたの」
 「なんて言われたの?」
 「この前と違う男を連れてるって、最近の
ガキは……的な感じのヤツね……」
 「そんなこと言われたんだ! 本当に失礼な奴、
 夏は大丈夫なの?」
 「大丈夫だよ。もうなんともないよ。
美術館に行かない限り会うこともないからね」

 「そうか。じゃあ、安心だな。
 で、川内先輩とは?」
 「ん? 部長と? 何?」
 「いや……その、川内先輩とはどんな感じだった
のかな~って気になってさ……」
 
 「部長とは、今後の進路のこととか
部活のこととか、話して、あっ! 
でも、先輩の絵画のモデルになって
ほしいって言われたくらいかな……」

 「モデル? 裸になる的なヤツか?」
 「は? 恭介何言ってるの? 
そんなんじゃないよ。
 ちゃんと洋服は着てるから」
 「そ・そうか……。なら、いいのか?」
 「いいよ~。それより、恭介、こんな夜中に
電話するなんて、何か大事な用事でも
あるのかな?」

 「え? い・いや、別に……ただ……」
 「ただ?」
 「今日一日、夏と川内先輩が一緒にいるって
考えただけで……その、落ち着かないっていうか、
ベットに入ったんだけど、頭の中がモヤついて
眠れなくて……。ごめん、だから電話した……」

 「え……?」
 恭介の言葉に、驚く夏……。

 「俺、ガキん時から夏のことが、好きなんだ。
 じゃあ、おやすみ……」
 一方的に話を終えた恭介は電話を切った。

 スマホを耳に当てたままの夏、
深夜、恭介からの突然の告白に、
一睡もできなかった夏だった……。