「痛って~」と口元を抑えながら椅子に座る悠、
 「も~友さん、何なんですか? 『俺だって、本気で彼女のこと愛してたんだ~』って……
 何で、あんなアドリブ言っちゃったんですか?」
 と口を尖らす季里也。

 「い……いや、悠と季里也のセリフのやり取り聞いてたらつい……心の声が叫んでしまって。
 ふたりともごめん」と謝る友。
 
 「しかし、俺等三人、本当によく殴りあったな」
 と悠が言った。
 
 「悠さん、さっきガチで俺の腹に蹴り入れたでしょ?」  
 と季里也が言った。

 「あれ? バレてた?」と悠が笑った。
 「俺、マジで殺されるって思ったもん。
 顔もスゲー怖かったし」
 と季里也が言った。
 「そうか? 可笑しいな~、何でだろな~?」
 ととぼける悠。
  
 悠の顔を見た季里也。
 「わかってるくせに……」と呟いた。


 パチパチパチと手を叩く音がした。

 「いや~今のシーン物凄く良かったよ。
 リアル感満載で、とても芝居とは思えないほどに……」
 と伊藤が三人の元へやって来た。
 
 苦笑いをする悠、季里也、そして友。

 「どうだ……おまえ等、これでスッキリしたんじゃ
ないのか?」
 伊藤が三人に聞いた。
 
 「俺は、自分の想いを叫んだから、もう悔いは
ありません。殴っちゃったけど」
 と友が言った。

 「俺も殴りあったら、今までのモヤモヤがすっきり
晴れて踏ん切りがつきました」
と季里也も言った。

 「そうか、二人とも大丈夫みたいだな。
 そして、悠君 君は?」
 と伊藤が悠に聞いた。
 
 「俺も、その……殴り合って、二人に対する
後ろめたい気持ちがスッキリしました」と答えた。

「よ~し、三人の気持ちがスッキリしたのなら
おまえ等の顔の腫れがひく……そうだな~
五日後に、最後のシーンの撮影に入ろう」
 と言い残すとその場を立ち去った。

 悠と季里也と友は、互いの顔を見てクスッと笑った。

映画のクランクアップまであとわずか……。