「監督私、やります! 夢を実現するために」
 とは言ったものの、
 一気に不安が押し寄せてきた唯。
 「は~、この役、演じれるんだろうか……」
 と一人、溜息をつく。

 ピコン……。季里也からのライン。
 唯ちゃんならできるよ。一緒に頑張ろうね!

 ピコン……。水月からのライン。
 唯ちゃん、いい作品になるよ絶対!
 皆と監督信じて頑張ろう!

 ピコン……。友からのライン。
 YUIちゃんとのお初ライン。嬉しい俺、よろしくね。

 ピコン……。そして、悠からのラインは、電話できる?

 唯は、季里也、水月、友に返信をすると悠に電話を
する。
 「もしもし、キヌコさん?」

 悠の声につい心の声が漏れる唯。

「悠さん私、出来るでしょうか?
 心配で、不安で。どうしよう」
 
 唯の不安な気持ちを聞いた悠。
 優しい声で、

 「大丈夫だよ。キヌコさんならやれるよ。
 俺たち、やっと一緒に作品創れるとこまで
きたんだよ。
 今日の監督の言葉は正直衝撃的だったけどさ。
 俺たちだから出来るんじゃないかな。
 季里也だって、水月ちゃんだって、友だって
そう思ってるよ。だから、俺とキヌコさんが
そんな弱腰じゃだめでしょ」

 「そうですけど……」
 「……」少しだまった悠だったが、
 「今から、会おうか……」
 と言った。

 「え? 今から?」と時計を見る唯、時計は二十一時。
 「だめ?」
 「いいですけども……」
 「じゃあ、今からそっち行くから……」
 と言うと悠が電話を切った。

 しばらくすると、悠が唯の部屋にやって来た。
 悠は唯の顔を見ると、
 「も~、何ヘタレてんだよ~キヌコ~」
 と言うと唯の両頬を手でつまむと左右に動かした。
 両頬をつままれた唯、
 「だっふぇ~ふふぁんで……」と言った。
 悠は微笑むと無言で唯を抱きしめた。

 唯は珈琲をマグカップに注ぐと悠に手渡した。
 悠は、ソファーに座ると唯に隣に座るように
手招きをした。

 テーブルの上には台本が置いてあった。
 「台本、読んだんだ」と悠が唯に聞いた。
 「はい。そしたら、急に不安になって、
ごめんなさい」

 「心配しなくていいさ。力抜いて」

 「悠さんに言われたら何とかなりそうな
気になってきました。うん!」
 と満面の笑みを浮かべた唯、
 そんな唯を見た悠は、唯の頭を撫でると
彼女の唇にそっとキスをした。

 「ねぇ、キヌコさん、俺等、明日から役作りの
ことや、撮影準備もろもろで忙しくなるでしょ?
 クランクインしたら撮影が終わるまでは、
役柄のこともあるからプライベートでは
会えないでしょ? だからさ俺にもパワーが出るように
その……いいかな?」
 と悠が唯を誘った。
 唯は、恥ずかしそうに下を向くと頷いた。

 「ありがと」と無邪気に笑う悠。
 悠は、唯の手を引くと寝室に入るとドアを閉めた。


 時計は午前零時を回る、
 ベッド下の床には、二人の衣類が重なるように
落ちていた。

 悠の腕枕で眠る唯に、
 「キヌコさん、俺も不安だよ。
 撮影中、冷静でいられるかどうか……」
 そう囁くと、唯の黒髪を優しく撫で目を閉じた。

 そして、夜が明ける頃、玄関に立つ悠。
 「じゃあ、撮影で……会おう」
 悠を見送る唯に優しく微笑むと部屋を出て行った。

 映画のクランクインまで、あと数週間。