唯が千春の作った料理を完食した。
 「はぁ~、お腹いっぱい。ご馳走様でした」
 と満足そうな唯。

 「よかった。食欲もあるみたいで、唯~本当に心も身体も疲れ果ててたんだね。冷蔵庫『空っぽ』だった。
 あの唯が料理もしないなんて、それだけ大変だった
んだね」
 と千春が言った。

 「なんか……段々忙しくなってきて、自分が自分でないようでわけわかんなくなって、
ただ、時間に追われる毎日で、言いたいことも言えなくて、イライラしちゃって。
 人に八つ当たりしてで最後には倒れちゃった。
 情けないな」と呟く唯。

 「そんなことないよ。唯は、頑張ってる。 
 だけど、頑張り過ぎてる。息抜きも大事だし必要だよ。
 ほら、前みたいにライブで発散するとかさ」
 と千春が言った。
 「うん、そうだね。千春、あのね……
そのことなんだけど」
 と唯が言いかけた時、

 ピンポーン ピンポーンと玄関のインターフォンが
鳴った。

 「ん? 誰だろう? こんな時間に……
宅急便かな? 田代さんかな?」と言うと千春が寝室を出て、玄関インターフォンのモニターを覗いた。

 「え?」と呟く唯、
 「うそ……」驚く千春。

 インターフォンに映っていたのは、
田代ではなく、宅急便の配達員でもなく、帽子を深々と
被り、メガネをかけた『悠』の姿。

 「うそ、なんで『RAINの悠』が……」
と唯の顔を見る千春。
 
 唯は、無言で玄関のロック解除のボタンを押した。