悠の部屋を久しぶりに訪れた唯。
 「すみません、遅くなって」と謝る唯。

 「いいよ。俺のほうこそ急にごめん、どうしても
会いたくなって」
 と唯を後ろから抱きしめた。

 「キヌコさん、ごはん食べよう」
 「はい、いただきます」

 二人は、悠が準備した夕食を美味しそうに食べ、
片付けを済ませるとソファーに座った。

 「キヌコさん、あんまり食べなかったけど、
体調悪いんじゃないの?」

 「ああ、大丈夫です。来る前に少しサンドウィッチ
食べちゃって……」

 「それって、季里也からの差し入れの?」
 「えっ?」

 「また、貰ったの? 最近、季里也と会ってるの?」
 と悠が唯に聞いた。

 「会ったって……仕事……撮影です。
 何で、そんなこと聞くんですか?
 季里也君、最近私のこと気がけてくれて、よく好きな
ものとかを差し入れてくれるんです。
 ただ、それだけです。それの何が悪いんですか?」
 
 「別に悪いなんて言ってないよ。
 ただ、季里也にはつらい顔とか見せるんだな……って
思って」

 「それは、季里也君とは、苦楽を共にした戦友だから
それに、フェイク記事のこととか色々と私達を守って
くれたから」

 「そうだよな。季里也は、俺の何十倍もキヌコさんのこと
知ってるし、守ってくれるんだよな?」
 
 「悠さん……どうしちゃったんですか?
そんなに怒って……」

 「怒ってなんかないよ」

 「怒ってます。せっかく久しぶりに会いに来たのに、
これじゃ余計に疲れちゃう……。
 季里也君は、これくらいじゃ怒らないのに」

 「は? 季里也がいいなら、季里也のとこに
行けばよかったんじゃないの?
 季里也、季里也って……季里也にはタメ語で話して、
俺には何時までも敬語で話してさ」
 と声を荒げる悠。

 「悠さん、こんな悠さん、私の好きな悠さんじゃない
 私が、今日ここに来た理由もわかってくれないん
ですね、もういいです。今日は帰ります」

 と言うと、唯は荷物を手に取り玄関に向かった。

 追いかけない、悠……。

 パタパタパタと玄関から戻る足音が聞こえた。
 悠がリビングのドアの方を見ると、怒り顔の唯が戻って来て言った。

 「明日の、CM撮影は……ちゃんとやりますから、
ご安心を!」
 と言うと唯は玄関のドアを開け悠の部屋を出て行った。

 「う~、俺なんてことを言ったんだろ」
 自己嫌悪に陥る悠……季里也から言われた
『本当の唯が見えていない』唯から言われた「ここに来た理由」、唯との初めての喧嘩……。
 ソファーに座り天井を見上げ、
「はぁ~」っと大きな溜息をつく悠。

 自宅に戻った唯は、電気もつけず寝室に入ると
そのままベットに倒れ込んだ。
 「悠さんの……馬鹿」と呟くと、
 そのまま、眠ってしまったのだった。