季里也から言われた言葉が頭から離れない悠。
 一人、部屋の隅で考え込む。

 そんな悠の姿を見た翼が近寄って来ると隣に座り
言った。
 「悠、どうしたの? 元気なくない?」

 「いや、何でもない。いや……なんでも、ある」

 「なんでもある? って……なに?」
 「俺、どうしたらいいんだろう?」

 真剣な顔の悠に少し驚く翼。

 「どうしたらいいんだって、もしかして『恋愛系?』
え~悠が『恋愛系?』……え~」
 と驚きを隠せない翼。
 
 「ば、ばか……翼、声がデカい!」
 と慌てて翼の口を手で塞ぐ悠。

 「んんん……ん~」
 と手足をバタバタさせる翼、
 「あ、ごめん、ごめん」と手を離す悠。

 「あ~苦しかった……もう!
 で、悠君は何を悩んでるんだよ」

 「宣戦布告されたんだよ……」
 「悠……おまえがか?」
 「ああ、正々堂々と面と向かって」

 「へ~『RAINの悠』に向かってそんなこと言うヤツ
いるんだ」

 「で・・誰から言われたの?」
 「それは、言えない」

 「ふ~ん、ってかおまえはそもそも、誰が好きなの?
 えっ? ってか彼女いるの? いないの?」

 「好きな女性(ひと)はいる。気持ちは確かめ合った。
 でも、事情があって今は会えてない。
 連絡も取れていない、それから、相手は言えない」

 「はぁ~それじゃ、何も言えないじゃんとにかくさ……」
 「とにかく?」

 「要は、君は目の前で宣戦布告されて、そいつから彼女を
とられちゃうんじゃないかと焦ってるんだね。
 仕事が忙しい君は、どうしていいかわからないって
ところか?」

 「まぁ、そうだけど」
 
 「……んなこと決まってるじゃん。 
 『会いに行くんだよ』どんなに多忙でも君を想ってる
アピールは必要だよ。
 そして、確かめ合うんだよ」

 「何を?」

 「『愛』だよ『あ・い』も~、ラブソングを書くヤツが、
何で、こんなことで悩むんだよ。
 まったく呆れるよ」
 と翼が両肩と手のひらを同時に上げた。

 「そうか……翼、サンキュ!」
 と悠は嬉しそうな顔でスマホを取り出した。
 
 ピコン……ピコンと悠の着信が入る。
 悠はスマホを手に取ると画面を操作する。
 唯からの返事だ。

 急にどうしたんですか?
 明日は確か撮影一緒ですよね?
 何故に?

 仕事では、一緒にいる機会が増えたけど
そろそろ、プライベートでもいいのかなって思って、
あっ……でも、キヌコさん疲れてるなら無理にとは
いわないけど。

 大丈夫です。じゃあ、今日仕事が終ったら。

 悠の顔からこぼれる笑み。


 その日の夜、
仕事を終えた唯が悠のマンションを訪れた。