今日もご多忙の『RAIN』のマネージャー江口が言った。

 「YUIちゃんとの共演の話が出てる」
 少し驚いた様子の五人。

 「共演って、役者としてですか?」
 と友が聞いた。

 「そうじゃなくて、今度彼女が初主演する映画の
主題歌を『RAIN』が担当することになった」

 「俺らが、主題歌を担当するんですか?」
 と友が言った。

 「ああ、そうだ。アーティストとして、『RAIN』が楽曲を提供する」

 「で、そのYUIちゃんの相手役は誰ですか?」
 と悠が聞いた。

 「季里也だ。季里也とYUIちゃんがW主演の映画だ」
 と江口が言った。

 酒井季里也、彼は悠たち『RAIN』が所属する事務所の
後輩、そして、唯と一緒に伊藤監督の元で共に学んだ
同期。

 「新人の季里也とYUIちゃんが主演。
 そして、その主題歌を俺たち『RAIN』が歌う」
 と友が呟いた。

 「ああ……十分に話題性があるだろ? 
 季里也とYUIちゃんは若手だが、
人気もあるし、なんといってもあの伊藤監督の
秘蔵っ子として世間でも話題になってる。
 監督はもちろん、伊藤要監督。
 主題歌は、『ラブソング』でせめていくいつものような
ダンスパフォーマンスはせずに歌だけで勝負してもらう。
 『RAIN』にとっても、新たな一面を見せるチャンスにも
なる」

 「なんか、凄いな」
 と心が悠の顔を見て言った。

 「悠 大丈夫か?」と友が聞いた。
 「そっちこそ大丈夫なのかよ」
 と悠がすぐに友に言った。

 「まぁ、今回は、俺等振り付け担当は出番なしか、
でも、楽曲担当の友と悠は大変だけど俺等もバックアップするから」
 と翼が言うと、心と良も頷いた。

 それを聞いた江口、
 「それじゃ、『RAIN』全員が承諾してくれたと
いうことで」

 テーブルの上に一冊の冊子を置いた。
 冊子を手に取った悠はパラパラとページをめくった。

 「映画の台本だ。イメージ掴むのに必要だろ?」
 と江口が言った。

 「ふ~ん、これがストーリーなんだ」
 と言うと悠は台本を読み始めたのだった。
 同じころ、Mエンターテイメン本社では雅社長と
マネージャーの田代より映画初主演の話を聞かされた唯。

 嬉しさで感極まる唯。
 「雅社長、田代さん、ありがとうございます」 
 と言った。
 「YUIちゃん、よく頑張ったね」
 と田代も喜ぶ。

 「この、映画は色んな意味で話題性があるから頑張って」
 雅が唯の肩に手を置いた。

 「話題性ですか?」

 「そうよ。監督はあなたの恩師、伊藤監督、共演は
酒井季里也君。
 そして、主題歌は『RAIN』が担当するの」

 「季里也君と共演。そして、『RAIN』が主題歌を
担当……」驚く唯。

 「驚くのも無理ないわよね。
 でも、それだけ注目度が高い映画になると思うし、
あなたの女優としての第一歩にふさわしい作品になると
思うの」

 「雅社長、本当にこのような機会を私に与えて頂き
ありがとうございます。
 私、ご期待に沿えるよう頑張ります」
 と言うと唯は満面の笑みを浮かべた。

 その日の夜、唯の携帯が鳴った。
 電話の相手は季里也。

 「もしもし? 唯ちゃん、久しぶり元気だった?」
 と相変わらず元気な季里也。

 「うん、元気だよ」
 「映画共演のこと聞いた?」

 「うん、今日のお昼に」

 「俺も、聞いてびっくりしちゃった。
 まさか、初主演映画が伊藤監督と唯ちゃんと
一緒だなんて。
 それに、サブキャストには水月もいるんだぜ。
 もう、同窓会だよ……」
 と興奮した口調の季里也。

 「私も驚いて、まだ信じられない。
 さっき、水月からも連絡があったよ。彼女も驚いてた」

 「そうだよな~、それに、あの『RAIN』が主題歌を担当してくれるなんて、もう俺、物凄く嬉しくて……」

 「季里也君の事務所の先輩だもんね」

 「そう。で、俺、すぐに挨拶に言ったんだ。
 『RAIN』はさ、楽曲担当がリーダーの友さんと悠さん、
心さん、良さん、翼さんが振り付け担当なのね。
 きっといい曲が出来るよ。楽しみにだな……」

 それを聞いた唯、
 「でも、主題歌に負けないくらいの作品を創る。
 頑張らないと……」
 と言った。

 「ああ、そうだな。唯ちゃん、これからよろしくね……」

 「こちらこそ、よろしくね」
 と言うと唯は電話を切った。

 部屋の天井を見上げ、唯は深い溜息をついた。

 そして、棚に大切に飾っている悠から贈られた
『台本カバー』を手に取ると映画の台本をカバーの中に
入れた。
 唯は台本カバーを胸に握りしめると、
 「少し、前進しました。悠さん、作品観てくれるかな?
 でも、嬉しい~主演だ!」
 と一人部屋で喜ぶ唯だった。

 カチャ……玄関のドアを開けて悠が帰宅した。
 冷蔵庫より缶ビールを取り出すとプシュッとフタを
開け、ゴクゴクと飲んだ。
 「はぁ~旨い……」
 悠は、江口マネージャーから渡された唯と季里也の
映画の台本をテーブルの上に置いた。

 椅子座ると、頭の後ろに手を組み天井を見上げて
言った。

 「初共演は、『映画の主題歌』か……
 うぁ~季里也の野郎、何がお願いしますだ。
 畜生……あ~、もう……モヤモヤするな」
 と言うと、台本に再度目を通しはじめた。

 「こうなったら最高の『曲』作ってやる……」
 と呟く悠であった。