ソファーに座る唯。

 「はい、どうぞ」
 と悠が唯にマグカップに注いだ珈琲を渡した。
 「ありがとうございます」

 「少しは、落ち着いた?」

 「はい……そのすみません、押しかけて来て」
 とすまなさそうな顔をする唯。

 悠は、唯のおでこに自分のおでこをコツンと当てると、
 「本当、びっくりした。
 まさか、家に来るとはね。
 普通、この流れなら……
会わないってのがセオリーなんだけど。
 キヌコさんには本当に驚かされる……」
 と悠が笑った。

  「私、わかってます。
  今は、会えないことも、
 季里也君とフェイクで恋人同士になることも
 ちゃんと受け入れます。
  社長が言ったことも理解できてます。
  だから、その……」
  口をつぐむ唯に悠は、彼女の手からからマグカップを
 取ると、テーブルの上に置いた。

  「キヌコさん、それ以上は言わなくていいよ」
  優しい眼差しの悠が唯を見つめる。

  「悠さん、どんな状況になっても
 私が好きなのは、悠さんだけてす。
  だから、そのことだけはわかってほしくて……」

  「キヌコさん、ありがとう。
  俺も……キヌコさんが好きだ。
  会いに来てくれて物凄く嬉しかった。
  俺のことは、大丈夫だよ気にしないで。
  俺……こう見えても一途なんだよ」

  「悠さん、モテるから……」と呟く唯。
  「え? 俺が浮気するとでも?」
  「そうじゃないですけど……」
  「そっちこそ、大丈夫なの?」
  「私?私は全然大丈夫です」
 
  二人は、見つめ合い、
 フフっと微笑むと、互いに唇を重ねた。