「もしもし、悠さん?」
 急いで電話をとった唯。

  「もしもし、キヌコさん」

 昼間に事務所で会ったはずなのに、
悠の声が懐かしく聞こえる唯。

 「悠さん、今どこにいるんですか?」
 「俺? 自分の部屋だよ。キヌコさんは?」
 「私も自分の部屋です」
 「キヌコさん、大丈夫? 色々と……」

 「どうですかね?って結構こたえてます」
 「ごめんね。事の発端は、俺だからさ」

 「そんなことないです。
 そんなこと言わないで」

 「あれ? キヌコさん、もしかして泣いてるの?」

 「……」
 「泣いちゃだめだよ」

 「だって、あんな写真勝手に撮られて、
フェイクでも季里也君と恋人同士にさせられて。
 私……私……、それに悠さんだって、雅社長から
酷いこと言われてないですか?」

 「キヌコさん、仕方ないよ。
 俺たち そういう世界にいるんだから」

 「私達、恋愛も自由に出来ないんですか?
 悠さんにだって、自由に会えない。
 私は、この世界に入れば、いつかは
悠さんの傍に立てるって思ってたのに。
 立つどころか……週刊誌に……」

 「キヌコさん俺だって、君に会いたい。
 今すぐにでも会いたいよ……。
 でも、今は会えない。わかるよね?」

 と悠が諭すように言った。

 「……どさ……ガチャ。どさっ……」
 何かの音がする。

 「キヌコさん? お~い、何してるの?」
 悠が聞いた。

 「悠さん……」唯が呟く。

 「何?」

 「……ます」

 「えっ? 何?」聞き返す悠。

 「わかってます。でも私、悠さんに会いたい。
だから、今から、そっちに行きます。
 『キヌコさん』で……じゃあ……」

 と言うと唯は電話を切ってしまった。

 プツン……。
 と悠の耳元で電話が切れた音。

 「え? ちょっと行きますって。
 電話……切れちゃった。
 まったく、キヌコさんは……」
 
 と呆れた顔の悠、
 でも、自然と笑みがこぼれていた。

 タクシーに乗り込んだ唯は悠の元へ向かった。