ピコン……。
『キヌコさん 今日もお疲れ様。
 頑張ってるね。頑張れ!』
 スマホ画面を見た唯が微笑む。

 時刻は午後九時、
 「唯ちゃん、なんか嬉しそうだね」
 と季里也が言った。

 スマホを胸元に押し当て
 「そうかな?」ととぼける唯。

 ここは、ドラマを収録しているスタジオ内、
スタジオの隅に置いてある椅子に
座る唯と季里也。

 ふたりは、映画の共演以来、
一緒に仕事をすることが多くなっていた。
 世間的に『理想の恋人同士』と言われ、
今回も『恋人同士』の設定でドラマに参加していた。

 「今日も、撮影時間押してるね」
 と季里也が言った。
 「うん。あと、少しなんだけどな」
 と呟く唯。

 「季里也君、唯ちゃん、お願いします」
とスタッフが二人を呼んだ。

 唯と季里矢は椅子から立ち上がると、
スタジオ内に組まれたセットに向かって
歩きだす。

 「カット」監督の声がかかる。
 「本日の撮影は終了です、お疲れ様でした」
 とスタジオ内に声が響く。

 「はぁ~、終わった。唯ちゃんお疲れ様」
 と季里也が言った。
 「お疲れ様でした」と唯も言った。

 監督、スタッフに挨拶をして控室に戻る唯。
 着替えを済ませ、控室のドアを開けると、
廊下に季里也が立っていた。

 「季里也君どうしたの?」と唯が聞いた。

「唯ちゃん、これからスタッフさんとごはん
行くんだけど、一緒にどうかな? って」
 季里也が唯を食事に誘った。

 「あ……今日は、疲れたから帰ろうかな」

 「そうか。じゃあ、また明日……」
 「うん。また、明日……」
 と言うと唯はテレビ局を後にした。

 時刻は午後、十時半を回っていた。
 唯を乗せた車が、路上に停まると、
 「ここでいいのか?」
 と唯のマネージャー田代が言った。

「はい、大丈夫です。お疲れ様でした」
と言うと唯は帽子を被り、メガネにマスクを
すると車を降り歩き出した。

 田代が運転する車が横を通り過ぎたことを
確認すると、唯は、スマホを取り出し
画面を操作する。

 ピコン……。
 すぐに唯のスマホに返信の音がした。

 唯は、スマホ画面を見ると、ニコッと笑い
歩き出した。

 自動ドアが開いた。

 エントランスロビーを抜けEVに乗り込む唯、
カウンターにいた林は微笑むと、
各世帯専用インターフォンで悠に連絡をする。

 「東田様、キヌコ様が今EVで上がられました」と……。