悠と唯、
 ふたりの想いが通じ合ったあの日から、
一ケ月が経過した。

 唯は、ドラマの撮影に追われる日々。
 悠は、地方でのライブに大忙しの日々。

 互いを結びつけているのは、
あの日、互いに交換した連絡先のラインのみ。

 「キヌコさん、元気かな? 会いたいな。
 っていうか、気持ち確かめ合ったただけで、
はぁ~、今日まで何も進展しないまま
会いに行くにしても、俺 今、地方だし、
キヌコさんは、撮影立て込んでて、
それどころじゃないし……」
 と溜息を漏らす悠。
 
 一人、物思いにふける人気者
『RAIN』の悠。

 「お~、その切ない瞳をした横顔、
様になってるよね~、流石! 我らの悠君。
 カッコよすぎでしょ」と翼が言った。

 「何? なんか言ったか?」

 「いいや、なんでもないけど、悠、最近独り言多くない?
 なんか、情緒不安定気味?」

 「そうか?
 情緒不安定っていうかさ、
精神安定剤が欲しいっていうか」

 「精神安定剤? どうした?」と驚く翼、
翼の顔を見た悠が慌てて、
 「いや……その、精神安定剤ってのは
安心したいっていうか、ホッとしたいというか、
そういう意味の……だよ」

 「あ~、そっち系の……安定剤ね」
 と翼がニヤリと笑うと悠の顔を見た。

 「何だよ……」と悠が翼に聞いた。

 「何だよって、悠、こっちが言いたいよ。
 どこの誰?『RAIN』の悠を情緒不安定に
なるくらいにしてる女性(ひと)は……」

 「それは……翼、言えないよ」と悠が呟く。

 「どうして?」

 「まだ……正式におつき合いしてないから。
 それに、俺の方が 『完全に惚れてしまってる』」
 と小声になる悠。
 
 悠の声の小ささに、またまた驚いた翼、
 「おつき合いって、悠『お』を付けるなよ」

 「『お……』そんなこと、どうだっていいだろ!
 とにかく、言えない。いや、言わない」
 悠の焦り顔を見た翼。

 「まぁ、仕事に支障が出ない程度に、   
記者に見つからないように、『恋』をわずらってくれ……」
 と翼が言った。

 「悠、スタッフが呼んでるよ」
 と友が二人の所に来ると声をかけた。

 「ああ、わかったよ」と言うと悠は友と一緒に 
スタッフの所へ歩いて行った。

 悠の後姿を見ている翼、

 「ふ~ん、悠が『恋』ね~、相手は誰なんだろな」
 と呟いた。