「美奈……? どこにいるの?」



そう問いながらも分かっていた。



ここにいるセミが美奈なんだと。



その証拠に足元から小さな声がする。



「隼人くん…ごめんなさい。里瀬美奈は人間じゃなくて…セミなの」



横たわるセミ…美奈を手に乗せ、目線の高さまで持ってくる。



その足には美奈がずっとつけていたピンクのリボンが結ばれていた。



「私はあの日…土から出てきた日に…道路脇にいて危ないと助けてもらったセミ」



数日前の記憶が蘇る。



たしかに俺はセミを助けた。



信号待ちをしていたとき、側の植え込みから一匹のセミが出てきた。



放っておくとそのまま車道の方へ行ってしまいそうな足取りに心配になった俺は、セミを車道から離れたところへ移動させた。



「私は…隼人くんの優しさに惹かれて。忘れようとしたけど無理だった。


日に日に…隼人くんへの想いが膨らんでいって。数日しか持たない命でも…隼人くんに繋いでもらった命だから。


神様に…お願いしたの。私を人間にして…隼人くんのもとに行かせてって。


気づいたら私は人間になってた……」




息も絶え絶えになりながら、自分のことを話す。




「セミの姿じゃなくなっても…寿命は寿命……私はもう死ぬ」



開く力がなくなったのか、美奈はそっと瞳を閉じる。



「人間として…隼人くんの隣にいられて……本当に幸せだった。私を好きになってくれた。それは…私が人間になった意味。数日の命……大切に使えた」



美奈の瞳から一粒の涙が零れ落ちる。



「気持ちに応えられなくて…ごめんなさい。それと…ありがとう。隼人…く…ん」



力がなくなり、美奈はそれ以上何も言わなくなった。