静かな、何かを諦めるような声が、スローモーションで耳まで届く。 人間じゃない 人間じゃない 人間じゃない 脳内で、スピードを出して回転しまくるコーヒーカップのように言葉が駆け回る。 「どういうこと…?」 戸惑いに任せてドアノブを引くと簡単に開いた。 ドアには鍵がかかっていなかった。 「あ……」 家の中を見て言葉を失う。 そこにいたのは俺のよく知る美奈ではなかった。 力尽きたように横たわる 一匹のセミ だった。