木曜日の夕方近く唯は、『キヌコさん仕様』で悠の部屋で仕事をする。
　掃除、洗濯、調理とテキパキと仕事をするキヌコさん。
　「はぁ～」時折つく深い溜息。
　唯は悩んでいた。昨日、スタジオで見た光景、
光輝くモデルAIRAの姿と雅社長から言われた言葉。
　そして、何よりも悠から言われた言葉が頭の中をグルグル駆け回る。
　「私なんか、本当に出来るのかな？　AIRAさんみたいになれるのかな？
　いや……いや、無理でしょう。どう考えても無理だ」と独り言を言う唯。

　「何が無理なのさ？」と後ろで声がした。
　唯が振り向くと、悠が立っていた。
　「ぎょっ！」と思わず変な声を出す唯。
　「そんな驚き方しなくてもいいでしょ？　忘れ物取りに来ただけだから……
それに玄関入って声かけたけどキヌコさんがぶつぶつ言って、俺の声聞こえてなかったようだし……」
　「あっ……そうですか。気づかずみません」と唯が小声になった。
　「別にいいよ……」と言うと悠はクローゼットから必要なものを取り出し
玄関に戻ろうとした悠が立ち止まり唯に言った。
　「ねぇ、どうするの？　返事……」と唯に聞いた。
　「そうなんですよね。どうしたらいいか迷ってて、色々と考えてたら不安しかなくて」
　「確かにそうだろうな。下手すればこの先一生のことだしな……」
　「はい、昨日見学に行ったら、有名なモデルさんの撮影を見学させてもらって……
だからそれを見たら余計に考えこんじゃって、一週間後に返事しなきゃいけなくて……」
　唯の不安そうな顔を見た悠は彼女の手を引くと、
　「キヌコさん、こっちに座って」
　と言うと、リビングのソファーに唯を座らせた。