次の日になり、僕は駅前の風俗店に向かう事にする。



 静香がビデオカメラを借りに来るとしたら、一週間ぐらい先の話だ。

 それまでチャンスは訪れない。

 そのやるせなさを癒すのに、どうしても女の裸に触れたかった。



 行く途中、公園で静香がいつものように隆志と遊んでいた。

 昨日の旦那との言い争いのせいか、表情がいまいち冴えていないようだ。

 一応声を掛けてみる。





「こんばんはー」





「あ、こんばんわー」



 僕の顔を見ると、静香は無理に笑顔を作る。

 見ていて痛々しかった。



「珍しいですね、夕方に公園来るなんて……」



「え、ええ…。たまには夕焼けを見ながら、外の空気を吸うのもいいかなって思いましてね。亀田さんは買い物ですか?」



「いえ、ちょっと仕事の打ち合わせで、駅前の喫茶店まで行くようなんです」



 さすがに風俗へ行くとは言えないので、とっさに嘘をついた。



「喫茶店で打ち合わせですか?」



「え、ええ、早乙女という男と……」



 何を僕は、わざわざ他人の名前まで出しているのだ?

 早乙女とは今仕事をもらっている会社の社員で、僕の担当でもある。

 本当にいけ好かない二枚目気取りの馬鹿だ。

 まあ彼の名前まで出せば、彼女も疑わないだろう。





「デザインの仕事も、色々と大変そうですね。頑張って下さい」



「ありがとうございます」



 風俗へ行くのに頑張るもクソもないだろう。







「ママー」



 隆志が静香に駆け寄ってくる。



「どうしたの?」



 隆志の視線が、僕を見つめている。

 子供心に、僕が子供嫌いだと本能的に分かるのだろうか。









「悪い人だ」



「隆志! そんな事、言っちゃ駄目だって何度も言ったでしょ」

 静香の目つきが険しくなる。





「だって悪い人…。あーん」



 初めて静香が息子を叩いたのを見た。





 隆志は大泣きだ。

 彼女は申し訳なさそうに何度も頭を下げている。

 子供にまで手を出すだなんて、もう少しで彼女は限界かもしれない。





 今度、旦那と喧嘩してアパートを飛び出したらチャンスだ。



 気まずくなった僕は、早々とその場を退散した。









 駅前の風俗店エリアに差し掛かる。



 新しく新規オープンした店『ボンジョビ』という店の黄色い看板が目を引いた。

 とりあえず店内写真を見に中へ入ってみる。



 豪華なシャンデリアや装飾品が、店内に飾ってある。

 有名画家が書いたみたいな絵画も多数置いてあった。

 近辺でここまで金を掛けている店は、ここが初めてであろう。



「いらっしゃいませ。ボンジョビへようこそ」



 ちゃんと蝶ネクタイまでした黒服の従業員が近づいてくる。

 見事に制服を着こなしていた。

 こんな対応をされたら、遊んでいかないといけないような気になってしまう。



「お客様、当店のご来店は初めてになられますか」







「は、はあ……」



 向かいにある風俗店『パラダイス・チャッチャ』の従業員とは、対応の質が違う。



「では簡単な当店のシステムから説明されていただきたいと思います」



 簡単な説明を受けると、従業員は現在出勤中の女の子の写真を出してきた。

 パッと見、二十名はいる。

『パラダイス・チャッチャ』にいる女どもとは、品や質が明らかに違っていた。





「ず、ずいぶんと可愛い子が多いんですね……」



「ありがとうございます。当店は現役の大学生中心に集め、店内教育を受けてから初めてお客様に奉仕するようにしています。ですので誰を選ばれても満足されるかと存じます。もし、お客様が不満を感じるようでしたら、すぐにお知らせ下さい」



 久しぶりに感じのいい店へ来られた気がした。

 いや、ここまでちゃんとしている店は初めてだ。

 僕は写真を一枚ずつ眺めてから、従業員に聞いた。



「す、すぐに入れる子って……」



「そうですね。まずこちらの由良正美さん、現役女子短大生です。次に田中夢さん、この子は現役看護婦ですね。それから人妻の及川ひよりさん。この三人でしたらすぐの御案内になります」



 どれもこれも甲乙つけがたい。

 どれもこれも目移りしてしまう。



「十分ほどお待ちになられるのでしたら、こちらの永井ヒカルさん、OLです。それと山口桃香さん、現役女子大生です。次に門脇麗子さん、こちらも同じく女子大生です」





「て、店員さんにお任せします」



「体型などのお好みはございますか?」







「う~ん…。ス、スレンダー……」



 これなら誰がついても文句はない。

 この感じのいい従業員に任せてもいいだろう。



「かしこまりました。では、あちらの待合室でお待ち下さい」



 ソファに座る時に、プレイを終えた客がカーテンから出てくる。

 自然と視線がいく。

 カーテンでよく風俗嬢の顔は見えなかった。



「どうも、すごい良かったよ」



「本日はどうもありがとうございました」



 その代わり、出てきた客の顔に見覚えがあった。







 あの静香の旦那だ……。



 瞬間的に僕は顔をそむけ、旦那が出て行くまでそのままの状態でいた。

 あんな綺麗で素敵な静香がいながら、わざわざ金を払って風俗へ行く旦那。

 僕には、その神経が理解できなかった。





 予想もしなかった静香の旦那との一方的な遭遇に、動揺を隠せないでいる。



 ある意味、これはいいチャンスかもしれない。

 幸いに向こうは僕の存在に気がついていない。



 今日辺り、帰って夫婦喧嘩になれば、間違いなく静香はあの公園で一人寂しく泣いているだろう。







 今、人生で最大の転機がやってきたのかもしれない……。



 想像するだけで股間がギンギンだ。



 ここで遊ぶのも悪くないが、やっぱり僕は静香を抱きたい。



 お金もまだ払っていないので、僕は隙を見て咄嗟に店を飛び出した。





 様子を伺うようにゆっくりと街の中を歩く。 

 旦那はまだその辺にいるはずだ。

 辺りを見回すと、ちょうど旦那が先の道を右に曲がるところだった。

 僕はダッシュで近づく。



 風俗エリアを抜け、旦那のあとをつける。

 あんな店に行っておきながら、何事もなく仕事帰りのように堂々と歩いていた。

 スーパーに差し掛かる。この辺で声を掛ければ自然だろう。





「こ、こんばんわ」



「あ、どうも。どうしたんです、こんな時間に」





「さ、さっきまで駅前の喫茶店で、仕事の打ち合わせがありまして……」



「それはお疲れ様です」





「香田さん、いつもより帰りが早いんじゃないですか?」



「たまには家族サービスもしないと罰が当たってしまいますので、今日ぐらいは残業なしで帰ろうと頑張ってみました」

 そう言って旦那は爽やかな笑顔を見せた。





 酷い嘘つき野郎……。

 さっきまで風俗で遊んでおいて、何が家族サービスだ。

 見掛けは確かにいい男かもしれない。

 でも、中身はただのクソ野郎だ。







 この男に静香はもったいなさ過ぎる……。





「それはいい事ですね。じゃあ、僕はスーパーに寄っていきますので、この辺で……」



 まだ公園に静香がいる可能性があるので、僕は用もないのにスーパーへ入った。



 旦那がこのあと家に帰り、いつものように口論になれば……。

 深夜、一人で公園にたたずむ静香を連想した。



 僕はさりげなく買い物に出掛けるふりをして、公園の前を横切る。

 赤いベンチで寂しそうに泣く静香。

 僕は彼女へ近づき、優しく肩を叩く。



「こんな夜中にどうしたんですか?」



 泣きながら静香は僕に相談をしてくる。

 旦那とうまくいっていない事。



 僕は不満を全部吐き出させ、優しく微笑む。

 そしてタイミングをみて、旦那が今日風俗店から出てきたのを見たと、さりげなく報告。

 うまくいけば、静香は自我が崩壊寸前だろう。





 その時、僕は強引に唇を奪い、強めに抱き締める。

 性欲に飢えていた静香はそのまま……。





 想像だけで言いようのない興奮が僕の脳を刺激した。



 僕の夢だった……。

 出会って以来、ずっと性欲の対象だった静香を、ついにこの手で好きなようにできる時がやってきたのだ。







「ちょっとあんた。買わないならどいてよ」

 冷凍食品コーナーの前でボーっとしていた僕は、買い物客の声で現実に戻された。

 買い物かごを手に持った中年の主婦が、僕を偉そうに睨みつけている。







「す、すいません……」

 僕がせっかく謝っているのに、その主婦は目でジロリと一別しただけで、無視を決め込んだ。





 高慢ちきなババアめ。僕は中年主婦の背後に回った。

 ババアは冷凍食料品を丹念に眺めている。

 右手に持った買い物かごの中には、大根、玉ねぎといった野菜類が入っていたので、そこへ僕は、唾液をダラリと垂らしてやった。



 その唾でも体内に入れて、根性を叩き直しやがれ……。







 部屋に帰り、パソコンの電源を入れる。



『静香』フォルダを開き、今まで撮った静香の画像を順に眺めた。

 出会った頃は、天使のような笑顔を持った彼女。

 しかし、今ではその笑顔に陰りが見える。



 同じ生活を毎日のように繰り返し、自分一人の時間が何もとれない静香。

 子供を育て、旦那の帰りを従順に待っているだけの毎日。

 女だって性欲はあるのに、越してきて一度も相手をしない主人。

 しかも、浮気疑惑まで感じている。

 その部分は、僕が真実を伝えるべきだ。



 結局、僕の作ったDVDは何の効果もなかったが、それに頼らなくてもいい状況になってきた。

 あとは隣の香田家の夫婦喧嘩が始まるのを待てばいい。





 今日は時間が経つのを妙に遅く感じる。

 しかし、少しも苦痛に感じなかった。



 生を受けてから四十年。

 ようやく僕にも最大の転機が訪れているのだから……。





 静香の純白のパンティ。

 すっかり僕の手垢と唾液で、どす黒く変色している。

 もう匂いも相当キツくなっていた。

 今度、隣で下着を干している時に一枚盗ってやろう。



 少し天然の入った静香の事だ。

 また風で飛ばされたぐらいにしか思うまい……。





 しばらく静香の画像や映像を眺めていた。

 時計を見ると十時を過ぎている。

 あと一、二時間もすれば隣は寝に入るだろう。

 その時にいつもの口論が始まれば……。



 今日、僕は珍しくマスターベーションをしていない。

 激しく膨れ上がる股間。

 それでも僕は我慢しなくてはならない。



 うまくいけば、今日これから静香を抱けるのだ。





 窓を開けて空気の入れ替えをした。



 目の前に見える公園。

 静香との仲は、ここから始まったように思える。

 もちろん始まりはスーパーでだが、親睦を深めたのはこの公園だ。



 今日の夕方のシーンを振り返る。

 僕に失礼な事を言った子供の頭を叩いた静香。

 あれは僕に好意を持っているからこその行動に違いない。

 謝れば済む問題が、わざわざ叩いたという事実。

 きっと僕の事を思うあまり、感情的になったのだろう。



 タバコに火をつけて、久しぶりにベランダへ出てみた。

 ムシムシする気温。

 ジワリと汗が滲み出てくる。



 手すりに手を掛けると、ザラザラした感触を感じた。

 このベランダも今度機会があったら、少しは整理しないと駄目だな。



 横目で隣をさりげなく見てみる。

 香田家はカーテンを閉めていたので、中の様子が分からなかった。



 意味もなく隣のベランダを眺めていると、隅に白いものが見えた。

 暗い中を凝視すると、どうやら女物の下着みたいだ。





 絶対に静香の下着だろう……。

 それ以外ありえない……。



 柵を乗り越えて拾いに行きたいが、今はさすがにできない。

 しかし明日になれば、静香は気付いてしまうだろう。



 危険を侵して下着を拾いに行くか?

 それとも隣に誰もいない時を待ってからにするか?



 前者は、見つかったら警察に捕まる可能性がある。

 後者も捕まる可能性はあるが、まだバレる確立は低い。



 だが、下着がなくなる事も考慮しないといけない。

 まさに究極の二択だ……。



 下着は欲しいが捕まりたくはない。

 当然の心理である。



 見つかった時を想像する。

 警察に通報され、取調べを受ける僕。

 当然、部屋も家宅捜査が入るかもしれない。



 そしてパソコンの中身まで……。



『静香』フォルダに入った隠し撮りの画像や映像。

 おまけに首吊り死体の画像まで入っている。

 週刊誌のB級記事として、面白おかしく報道されるかもしれない。





 しばらく考えてから、断腸の思いで後者を選ぶ事にした。

 今、下手な行動をしたら、すべてが台無しになる。

 それだけは避けたかった。



 部屋に戻ろうとする。

 だが、後ろ髪を引かれる思いだ。

 振り返り、落ちている下着を見つめる。







 駄目だ、いけない……。

 見ていると柵を乗り越えて、拾いに行きたい衝動に駆られてしまう。

 隣には今、静香を始め、旦那や子供までいるのだ。



 今は隣でいつもの言い争いが始まり、静香が飛び出すのを大人しく待つんだ。

 パンティじゃなく、本物が手に入るんだぞ?



 僕は必死に、自分へ何度も言い聞かせた。





 何時間ぐらいこの体勢でいるのだろう。

 体を壁に張り付け、耳を澄ましている。



 隣で起きる物音一つ聞き逃さないようにしていた。

 同じ体勢をしているので、体が苦しい。

 それでも我慢するしかないのだ。



 横目で時計を見る。

 夜の十二時を回っていた。



 いつも子供が寝静まってから始まる言い争い。

 もうそろそろ始まる頃合いだ。



 テレビからの騒がしい雑音が消え、隣はこれから寝る体制に入ろうとしている。





 もうそろそろだ……。

 あと少しの辛抱だ……。



 僕は、壁にピッタリつけたまま耳を澄ませた。





 ようやく薄い壁から静香の声が聞こえてくる。



「ねえ、あなた。今日みたいに、いつも早めに帰ってこれたら嬉しいな」



「無理言うなよ」





「だって……」



「これでもおまえや隆志には、いつもすまないと思っているんだよ」



「じゃあ、たまには抱いてよ。もう隆志はすっかり熟睡しているから、ちょっとやそっとじゃ起きないわ」



 無理に決まってるだろ……。

 あんたの旦那はさっきまで風俗で遊んできたんだから……。

 僕は心の中でそっと囁いた。



 しめしめ、予想した通りの展開になってきた。

 近くに鏡がないが、今自分の顔を見たら今までにない満面の笑顔をしているのだろう。





「今日は無理だよ」



「何でよ。今日は早く帰ってきてるじゃないの」



「仕事の疲れがいまいちとれないんだよ」





「いつもそればっかり……」



「もうちょっとで今の仕事が片付くからさ。だから今日は寝させてくれよ」





「こっちにきてから同じ台詞ばっかり…。そんなの聞き飽きたわ」



「うるさいなあ…。仕事仕事で頑張っている俺を何だと思っているんだよ。おまえは家で隆志と遊んでいればいいだけじゃないか」





「ひ、酷い…。そんな言い方ってある……」



「社会の苦労なんて何も分からないくせによ」



「あなただって主婦の苦労を何も理解してくれてないわ」



「お互いに理解し合わないだから、バランスいいんじゃないか」







「何よ、そのバランスって…。結婚した頃はそんなんじゃなかった」



「当たり前だろ。結婚して何年になると思うんだ」





「五年よ」



「付き合い始めのカップルじゃないんだぞ。それを今じゃなんだよ。盛りのついたメスみたいによ」





「私が、盛りのついたメス……」



「今のおまえ見たら、誰が見てもそう思うんじゃないか」





「あなたは、そんな目で…、わ、私を、み、見ていたの……?」



「うるさいって! いつもみたいに前の公園で頭、冷やしてこいよ」







「あなた……」



「だからうるさいって!」



 そこで会話は中断され、物音が聞こえてきた。

 静香がぶち切れたのだろう。

 外に飛び出す為に、今、着替えているはずだ。



 やがて隣のドアの開く音が聞こえ、外の廊下を駆け足で通る足音が鳴り響いた。



 すぐに静香のあとを追いかけたい。

 でも、僕がすぐ外に出掛けるのはさすがに不自然だ。



 窓を少しだけ開けて、外の様子を眺めた。



 予想通りの展開に、僕の股間ははちきれんばかりである。





 窓の隙間から白いTシャツを着たラフな格好の女性の姿が映る。

 その女性は公園に入っていき、赤いベンチに座った。

 その女性とはもちろん静香だ。



 彼女は座った状態で下をうつむき泣いていた。

 僕ははやる気持ちを懸命に抑え、ひたすら様子を伺う。

 ここ最近の静香は、一時間ぐらいこうしている。



 静香が公園に来て、十分ほどの時間が経過した。





 そろそろ僕の出番だ……。



 いざその時になると、緊張が全身を貫く。

 心臓の鼓動が激しくなっているのが分かる。



 落ち着け……。





 自分で一生懸命言い聞かせる。

 興奮と緊張が同時に僕を襲う。

 色々な考えが、頭の中を駆け巡り混乱してきそうだった。





「ずっと…、この時を待っていたんだろ……」

 わざと声に出して言ってみた。



 言いようのない緊張。

 胸の辺りが苦しい。

 ありったけの勇気を振り絞れ。

 今、行かないでどうするんだ?

 この機会を逃したら、もう終わりだぞ?



 心臓の鼓動が、どんどん早くなっている。



 駆けつけたい気持ちはあるのに体が動かない。

 脳の命令に身体が拒絶反応を起こしている。

 時間は、無情にも刻々と過ぎていく。



 こんな迷っている内に、静香は落ち着いて帰ってしまうかもしれない。

 旦那の浮気をさりげなく報告するんだろ?



 シュミレーション通りだと、静香は間違いなく絶望の淵に立たされる事になる。

 その時、僕が優しくしないでどうするんだ。



 出会って以来、ずっと心の内に秘めたこの淡い想い……。

 現実になる時がすぐそこまできている。



 緊張と性欲……。

 答えは一つしかない。

 僕は己の全身を奮い立たせた。



 拾った静香のパンティを手に取る。

 生ゴミが腐ったような臭いが鼻をつく。

 そんなものは構わずに、黒ずんだパンティを口に含んだ。

 口の中に何とも言えない異臭が一気に広がる。

 そのままゴミ箱へ吐き捨てた。





「今までありがとう…。ずいぶんとお世話になったよ。でも…、僕にはもう必要ないんだ」

 ゴミ箱に捨てたパンティに、頭を下げると感謝の意を述べた。

 心の奥底からありがとうと言った。

 しょせん静香のパンティであって、静香本人ではないのだ。

 これから僕は、本物を抱きに行く。



 ゆっくりと玄関に向かう。

 一歩進む度に足取りが重くなっていく。

 それでも僕はくじける訳にはいかない。

 靴を履き、ゆっくりと深く深呼吸をしてからドアを開けた。