今度の投稿者は、モザイクを掛けていなかった。



 年齢は二十代半ばといった感じの綺麗な女性。

 美和と比べても遜色がないくらい、いい女だ。



 ただ、どこか陰りがあるような表情。

 まあこのようなDVDに投稿するぐらいだから、本人にとってはいい思いではないはずである。

 藁にもすがる思いなのであろう。



 Cさん(仮名)というテロップが表示され、スタッフとの会話が始まった。





「こ、こんにちは…、はじめまして」



「はじめまして…。さて、今回はどのような経緯で、作品を投稿したのでしょうか?」





「はい…。私には、三歳の子供がいます。男の子なんですけど、元気がいっぱいな盛りです」



「ちょうど、可愛い時ですよね」



「あ、ありがとうございます」



 ウェーブの掛かった綺麗な茶色いロングヘアー。

 パッチリとした二重まぶたの瞳。

 整った端正な顔立ち。

 どれをとっても、いい女である。



 だけど、陰りのせいか、暗いイメージしか湧いてこない。

 内面にかかえている問題からか、そのすべてが綺麗さを台無しにしてしまっている気がした。



 陰湿な黒いオーラが、彼女を包んでいるみたいに感じる。





「それで?」



「ええ、実はアパートに住んでいるんですけど、隣の住民の方に、ビデオカメラをお借りたんです」



「それは、親切な方ですね」





「……」

 Cさんの表情は、さらに暗くなったように見えた。



 これだけの女だ。

 隣の住民とは男で、下心丸出しだったか何かに違いない。



 いや、待てよ……。



 隣の住民と言っているだけだから、男と決まった訳じゃないのか?

 俺は自分勝手な想像をしていた。





「おや、どうしました?」





「あ、はい…、親切な方でした。その人、向こうから私に言ってくれました」



「何てです?」



「お子さんが可愛い盛りだし、映像に収めておいたらどうですかと……」



「きっと、子供好きな方なんですよ」





「はぁ……」



「はい、続きをどうぞ」



「ええ、それで録画したら、隣の人がDVDにしてあげると言ってくれたので、その好意に素直に甘えました。やっぱり自分の子供の成長記録がほしいって……」



「全然、悪い事じゃないですよ。世の中の親、すべてそう思いますよ。子供が恋しくない親なんていませんよ。目に入れたって、痛くないんですからね。だから、日本は平和な国なんですよ」



 勝手な事、言ってやがる。

 俺は、インタビューでペラペラと話す軽薄そうなスタッフを睨んだ。



 だったら何で世の中、子供への虐待があるんだ?



 中にはとんでもない親だっている。

 無責任な発言を簡単にしやがって……。





「ありがとうございます」



「はいはい、それで?」





「はい、何度か、その方にはDVDを作ってもらいました」



「ほう、それは良かったじゃないですか」





「はい…、その点はとても嬉しかったでした……」



 そう語る表情はとてもじゃないが、嬉しそうには全然見えない。

 その点はと、短い台詞の中でわざわざそれを自己主張しているような……。



 しかも、過去形で話している。

 嬉しいではなく、嬉しかったと……。





「では、本題に進めましょう。その中で何かがあったのですね?」





「……」

 下をうつむきながら、考え込んでいるCさん。





「●●さん?」

「あ、はい…。そうです……」



 実際Cさんの受けた衝撃はそれほど、強かったのであろう。



 前の二作品とは、比べものにならないほど、もの凄いものが映っているのか?

 不謹慎ながら、俺はワクワクしてきた。





「何があったんですか?」



「子供が、いつものように近所の公園で、遊んでいるところなんですけど……」

「ええ」



 公園で、昨日殴られた事を思い出す。

 ちっ、あの二人組め……。





「すべり台でうちの子が遊んだあと、ブランコほうへ行く時に……」

「はい」





「ブランコで首を吊っていたようなサラリーマン風の男が……」

「え、ハッキリと映っていたんですか?」





「ハッキリというよりかは、うっすら透明にといった感じです」



「でも、●●さんは、それを見ながら撮影していた訳ですよね?」

「もちろんです! ただ、私からはその時、何も気づきませんし、何もなかったんです!本当ですよ? 信じて下さい!」



「落ち着いて、落ち着いて……」



 急に取り乱すCさん。

 スタッフは慌ててなだめていた。





「す、すみません……」



「では、その問題のシーンを拝見いたしましょう」





 慌てたスタッフは半ば強引に画面を切り替えたようだった。









 ―― 公園に映るブランコで首を吊った男 ――







 近所の公園で無邪気に遊びまわる男の子。

 三歳というだけあって、見ているだけで微笑ましい光景である。



 母親にビデオカメラで撮られるのを嬉しそうに、元気いっぱいはしゃぐ子供。



 砂場で山を作って遊び。

 ジャングルジムを頑張って必死に登る。





 どこかで見たような風景である。

 気のせいだろうが、見ていて他人事のように見えない。

 不思議な気持ちだった。





 ジャングルジムについているすべり台から、大声を上げながら滑り降りる男の子。



 すべり台つきのジャングルジム……。

 これも見覚えが……。





 子供は、ブランコのほうへ駆けていく。



 確かにブランコの上の棒で、紐をくくって、一人の男の姿が見える。うっすらと透明に……。





 俺がびっくりしたのは、幽霊みたいな首吊り男を見たからではなかった。





 この公園……。

 俺のマンションのすぐ近くの公園じゃないのか……。





 子供が走っている際、右から映りこむブランコ。

 通常の一人乗りのブランコではない。

 二人が向かい合って座るタイプのブランコだ。



 そして、少しだけ映った赤いベンチ。





 間違いない……。

 この公園は、うちの近くの公園だ。



 昨日、ラーメン屋で揉めた二人組に連れて行かれたあの公園。

 思わぬ展開に、鳥肌が立つ。





 何という偶然だろうか。



 怖さも感じているが、それ以上に感動があった。

 こんな近場に霊の出た場所があったなんて……。



 俺はもう一度、映像を見直した。





 ブランコでうっすら映るサラリーマン風の男。





 どう見ても不自然な映像だ。

 俺はデザイン会社で働いているから、このぐらいの映像を作ろうと思えば作れるスキルはある。



 パソコンのフォトショップを使えば、心霊写真を作ることなど、容易いものだ。

 それを動画にうまくはめ込めば、この映像は人工的にでも作れる。



 ただ、誰がこんな事をするというのだ?



 いくら何でも、こんな事は、誰も考えつかないだろう。



 この映像は間違いなく霊が映ったものである。

 俺はそう信じたい。

 興奮で体が震えていた。



 それに昨日、公園で匂った臭い……。

 あれは気のせいではなかったのだ。



 あと少しでこのブランコで首を吊った男と、遭遇できたのかもしれない。

 もっとよく確認すれば良かった。

 非常に昨日の行動が悔やまれる。





 俺の頭の中は、この公園に対する好奇心でいっぱいだった。

 あんな場所に霊がいたなんて……。







 美和が昼食を作り、テーブルに運んできた。



「もう、見終わったの?」

「ああ、すごい……」

 言い掛けて、思わずやめた。



 この事を美和に話しても、いたずらに怖がらせるだけだ。



「すごい…。すごいどうしたの?」

 首を傾げながら、美和は笑顔で聞いてきた。



「すごい…、クソビデオだったよ……」



「ありゃ~」



「まあいい、充分に暇つぶしはできたしな」



「なら、いいけどね」



「お、昼はパスタか」

「うん」



 テーブルに次々とおかれる料理。

 本当に料理が好きな女である。



 クリーミーなカルボナーラのパスタ。

 様々な野菜を使ったシーザーサラダ。

 中に入っている材料は、玉ねぎとわかめだけのシンプルなコンソメスープ。

 デミグラスソースをかけた王道のハンバーグ。

 ジャガイモから、ちゃんと作ったフライドポテト。

 甘く煮たニンジン。

 おいしそうな湯気を出す炊き立てのご飯。



 毎度の事ながらよくもあれだけの時間で、こんなに作れるものである。

 素直に感心する。



 これだけ尽くしてくれる美和に対して、俺はかなり酷い台詞を吐いたものだ。



 心の中で頭を下げた。

 人間、なかなか言い出せない言葉があるものである。





「雷蔵が喜んでくれて嬉しいわ」

 そう言って、美和は嬉しそうに喜んだ。







 その日は結局、一日中二人で一緒に過ごした。



 たくさん話し、たくさんセックスをした。

 だけど俺の頭の事は、あのDVDにも映った公園の事しかなかった。

 何をしても、上の空になってしまう。



 夜になると美和は明日の準備があるからと、帰り仕度をしだした。

 俺は美和を送りついでに、あの公園へ行こうと思っていた。



「雷蔵、悪いから大丈夫よ」



「いいから、いいから…。昨日のラーメン屋の件で、おまえに何かあったら嫌だって俺は思ったんだ」



「ありがとう。昨日の雷蔵、格好良かったよ。とても……」



 濃密なキスをして、俺たちは部屋を出た。





 時間帯は九時を回っている。

 当たり前だが外に出ると、すっかり真っ暗になっていた。



 わりと近所に住んでいる美和は、俺のマンションから歩いて十五分ぐらいの場所にいる。

 マンションを出ると、五分ぐらいで例の公園を通る。





「ねえ、雷蔵。私、何かこの公園って気味悪く思うのよ」



「そうか?」

 わざとおどけて言った。



 美和の感覚は間違っていない。

 本当にあのDVDを見せなくて良かった……。





「何か、辛気臭いって言ったらいいのかな…。できれば、この前を通りたくないもん」



「何か感じるの?」





「うーん、特には…。でも、私って多少、霊感があると思うんだ……」



 初耳だった。

 ただの怖がりでホラーものを避けていただけなのかと、今までそう思い込んでいた。





「霊感?」





「うん…。最近はそうでもないけど……」



「ちょっと、近くの喫茶店で話しようか?」



「やだ、何、そのニヤけ顔」



「仕方ないだろ。俺のライフワークでもあるんだから」

 美和は苦笑いをして、軽く鼻で息をはいた。



「まったくもう…。まだ、あそこの喫茶店てやっているの?」



「ああ、確か夜の十一時までだったかな……」





 美和を送る予定が、思わぬ展開になってきた。

 俺もひょったしたら、実際に霊体験をできる時が、近づいてきたのかもしれないな。

 俺たちは出会ったきっかけでもある喫茶店に向かった。





 二人ともコーヒーを注文する。

 美和は上を見ながら、前の事を思い出しているみたいだった。



「早くおまえの霊体験、何か話してよ」





「うーんとねー……」



 俺はワクワクしながら、美和が口を開くのを待った。

 こんな身近な存在に貴重な体験をした人間がいたとは……。

 嬉しい誤算である。





「私がまだ小さくてね。親元にいた頃の話なんだけど、それでいい?」



「ああ、いつぐらいの頃?」



「うーん、小学六年の時なんだけどね」

「ああ」



「友達の家に遊びに行ったの」

「ふんふん」



「かくれんぼして遊んでいてね。私は友達の部屋のタンスに、隠れようと思ったの」

「それで?」



「タンスの扉を開けると、一人の女の子がいたの」





「友達の妹さん?」



「ううん、その子…。一人っ子だったから、それはない」

「へー……」





「格好は言い方悪いけど、酷く薄汚れた格好をしていて、顔もげっそりと痩せていたんだ」

「うん」



「私と目が合うと、何か言いたそうにしているの」





 マスターがコーヒーを運んできた。

 ここのブレンドは、キリマンジャロがメインになっているので好きだった。





「それで、どうしたの?」



「うん、それで私、その子に話しかけたの。こんなところで、どうしているのって」

「ああ」





「そしたら、その子。口は開いていないんだけど、私の脳へ直接声が聞こえてきたの」



「はぁ?」





「戦争の空襲警報が鳴って逃げてきたけど、母親とはぐれてしまい、逃げる人のあとを必死について行ったら、防空壕に到着したんたって……」



 俺たちは、戦争を知らない世代だ。

 その当時の書物は何冊か読んだ記憶がある。



 防空壕とは戦争時、敵の攻撃から非難する為に作られた施設だという知識ぐらいは持っていた。

 広島、長崎に原子爆弾が落とされ、たくさんの命を失い、日本は降伏をした。

 英国、アメリカ、中華民国の三カ国首脳の共同声明として、当時の日本(大日本帝国)は、ポツダム宣言を受け入れた。

 悲しい俺たちの国の過去。





「食べるものも、水もなく飢えて苦しいって、必死に私に伝えてきたの」



「怖くはなかったのか?」



「うん、不思議とね。その子は亡くなっているのを自分で気が付いていないの。とにかくお腹が減って、苦しんで亡くなったんだと思うんだけどね……」



 美和は寂しそうに言った。

 気持ちは分かる。

 俺たちじゃ、想像もできないぐらいの苦しみがあった時代なのだ。

 今の日本は便利になった代わりに、すっかり平和ボケしている。





「だから、友達に言ったの。タンスにコップ一杯のお水を置いてあげてって」

「うん……」



「それと、お菓子とかあったら、一緒にって……」

「そうか」





「うん。もし、お水がなくなるようなら、必ずまた入れてあげてってね」





「成仏できたかな……」



「多分…、しばらくして、私がその子の家に遊びに行った時、ちゃんとお水も、お菓子もお供えしてあったんだ」





「そっか……」

 俺はできる限り、優しく微笑んだ。







 美和と付き合い始めの頃を思い出した。

 一度だけデートをしていて歩き疲れ、あの公園へ入った事がある。



「なあ、美和」

「ん、何?」



「おまえさ、俺とあの公園に一度デート中に入った事あるの覚えてる?」





「う、うん……」



「あの時、ベンチに親子連れがいたから、すぐ出ようとしたけど、おまえ何故か子供の顔をジッと見ていたでしょ?」





「え、そうだったっけ?」



「うん、だって俺がさ、『おい、美和。何してんだよ? そろそろ行くぞ』って声を掛けたぐらいじゃん」



「あ、そうだったね」



「子供の顔を見てたけど、何か感じるものあったの?」





「う~ん、よく分からないけど私とその子、同じような能力があったような感じがしたの」



「え、そうだったの? あの公園じゃん。だから何か不思議なもんがあったかなと思ってさ」



「え、あの公園じゃんって?」





 しまった。

 美和は『一般人投稿の不可解な映像』を一緒に見ていないから、あの公園が曰く憑きだなんて知らないんだっけ……。





「いや、何となく」



「何か隠してるでしょ、雷蔵?」





「いやさっき俺が借りたDVDあるだろ? あの件なんだけどさ、話すと美和怖がるかなって思ってさ」





「……」

 見る見る内に美和の表情が青白くなっていく。





「この話はやめとこう」





「うん…、ごめんね」



「いいよいいよ。こんな話を振った俺が悪かった」



 少し気まずい空気が流れる。

 コーヒーを飲み干すと、俺たちは喫茶店をあとにした。



 別れ際になって美和が真剣な表情で口を開く。







「ねえ、雷蔵。お願いだから、あの公園には近づかないで」



「ん、急にどうしたんだよ?」





「よく分からないけど、あそこには近づかないほうがいいってすごい感じるの」



「え、じゃあひょっとして俺、初の霊体験ができるかもしれないじゃん」



 俺は飛び上がって喜んだ。

 美和の表情がさらに曇る。





「雷蔵……」

「何だよ?」



「そんな霊体験だとか簡単に言わないで、お願いだから……」



「急にどうしたんだよ?」



「ホラービデオを見ているぐらいなら、私は何も言わなかった。でもあの公園は本当に言っちゃ行けない場所のような気がする。霊体験ってそんな簡単なものじゃ済まない気がするの……」





「美和……」



 これだけ強く言う美和を初めて見た。

 心の底からお願いしているのだ。



 霊体験なんて遭った事がないから楽しみと思っていたが、実際に遭ったらそんな事言っていられないだろう。



 美和を送ったあと、例の公園に差し掛かる。

 あんな話を聞いたばかりなので、いたずらに近づくのはやめようと思った。



 今の日本……。

 確かに腐りきってやがる。戦争時の日本か……。

 大変だったんだろうな……。



 そう思うと簡単に霊だ何だって喜ぶのは、間違いのような気がした。

 俺の先祖も戦争は体験してきたのだ。

 今度久しぶりに墓参りでも行ってこようかな。



 マンションに到着すると、鏡を見てみた。

 まだ、顔の腫れはそんなに引いていない。

 これじゃ明日、会社へ行ったら色々と突っ込まれそうだ。

 明日も有休をつかうか……。



 湯船にお湯をためて、ゆっくりと風呂へ浸かった。



 人間って、どう生きるのが正しいのだろうか?



 そんな事を考えてしまう。

 今の日本が豊かなのは、戦争後の人たちが頑張って築きあげてきたからである。



 俺を始めとして、今の連中は一体なんなのだろう?

 楽しい事だけ、追求して生きるのもいい。

 だがそんな姿を見て、昔の人たちはどう思うのだろうか。



 今の連中は、命ってものを簡単に考え過ぎている。

 自殺する奴も、年間で三万人を越えているという。

 それも日本だけの数字だ。

 驚異的な数字である。



 日本は法律で自殺や自殺未遂に対し、犯罪として扱うことがないようだ。

 昔は違ったらしいけど……。



 自殺者は女より、男のほうが圧倒的に多いのも知っている。



 何でこんな世の中になっているのかな。

 今じゃIT社会ってもてはやされているけど、パソコンが使えなくなった時の被害って、どのぐらいになるんだろうか?



 昔は違った。

 少なくてもパソコンや携帯がなくても、みんな普通に生きてきた。



 特に携帯の機能の充実さは異常である。

 あれば確かに便利だ。

 でも通話とメールができるぐらいで、ちょうどいいんじゃないかと、俺は考えている。



 各メーカーがこぞって色々な開発をしているが、それが正しいのかというと間違っているような気がする。



 そもそも携帯って何だ……?

 携帯とは、手軽に持ち運びができるものを指すんじゃないのか?



 携帯で持ち運びができる電話だから、携帯電話。

 でも今携帯というとみんな…、もちろん俺も含めて携帯電話の事だと思ってしまう。



 テレビもそうだ。

 視聴率、視聴率と言いながら、それをとるのが正論なんだみたいな風潮になっている。



 あのくだらないお笑い芸人たちを見ていても、面白くもなんともない。

 女は整形しても外見だけ良ければいいみたいな感じだし、明らかにおかしくなっている。



 サッカーだってそうだ。ワールドカップと盛り上がっているが、日本代表を見た時がっかりした。

 世界に日本代表としていく訳なんだから、日本人らしくいればいいのにと思ってしまう。

 日本人は黒い目、黒い髪なんだから……。

 代表の中で日本人らしい選手って、どのくらいいるんだろう。茶髪にした選手が非常に多い気がする。



 世界にとって、日本は強い国ではない。

 髪を染める暇があるのなら、ボールを蹴ればいいのになって普通に思う。

 まあ、サッカーだけではないのだが……。



 色々な事を考えていて、すっかり長風呂になってしまった。

 指の先がふやけている。

 風呂を出る時、何か思い掛けたのを感じた。

 だが、それはすぐに消えてしまった。

 何だろう。



 まあいい……。

 顔の腫れもあるし、明日も会社を休む事にしよう。

 幸い今の仕事状況は、そこまで忙しくない。

 きっと上司も文句は言わないはずだ。



 珍しく真面目な事を考えてしまった。

 一体、俺に何ができるというのだろう?

 個人で見れば、ちっぽけな存在である。そんな俺に……。



 いや、似合わないな……。

 真面目な事を考えるのはやめよう。