「あなた」

女性が、言った。


「なんだい?」


男性が、応えた。



「そう言えば、私達、今まで良くここまでやってこれたわね」


「そうだね。君には苦労ばかり掛けてきたよ。すまん」


「そんなつもりで言ったんじゃないわよ。謝らないでよ。改まって。そん
なのいいのよ。別に・・・」


「良いことないさ。本当に悪かった」


「どうしたのよ。あなた。何かあった?」


「何もないよ。そうそう、これありきたりだけれど、午前中に花屋
で買って来たんだ」


と、言って男性は女性に、あるものを手渡した。


「わぁ、なんて綺麗な薔薇とカスミソウ。ありがとう」


「君の年齢に合わせて30本あるからね」


「えっ・・・私、今年で55歳よ」


「それくらいサバ読んでも、君はバレないよ」


「ホントかしら・・・」


「ホントだよ」


「なんだか照れるわ・・・」








「そうだ。今夜はいつものレストランで、ディナーなんてどうだい?」


男性が、言った。



「えっ、いいの?」


「いいんだよ。じゃぁ、身支度しようか」


「分かった」








「用意できたかい?」


「出来たわよ」


「じゃぁ、行こうか」


二人は、レストランに向かう道を歩いていた。



「手を繋ごうか?」


「いいわよ」


「ん? どうしたんだい?」


「なんだか、こうやって二人で手を繋ぐの何年ぶりかしら・・・」


「そう言えば、そうだね。これからも手を繋いで歩いてくれますか?」


「いいわよ」


「二人が、おじいちゃん、おばあちゃんになってもかい?」


「もちろんよ」


女性は、笑顔でそう言った。






沈んでいく夕日が、二人を優しく包んでいた。


















         END