「お騒がせしましたわ。この度はご婚約おめでとうございます」


その様子を見て、先ほど私に話しかけた貴族は逆上した。

そして、私に空になったワインのグラスを投げつけた。




「舐めやがって!」



私はギュッと目を瞑ることしか出来なかった。

顔を守る仕草すら取る余裕がなかった。





ガシャン。




何故か痛みを感じない。

私がそっと目を開けると、目の前にクラヴィスが立っている。

グラスを使用人が持っていたトレイで弾き飛ばしたようだった。

そして、クラヴィスが私の方を向いた。




「助けて欲しい時は、助けてと声を上げないと駄目だ」




クラヴィスが、私の顔に滴るワインをハンカチで優しく拭いている。

その仕草に私はひどく安堵してしまった。