私は立ち上がって、前を向いた。




「やめなさい。私はこの国の第一王女。無礼な真似は控えなさい」




顔を上げて、クロルに「大丈夫」と視線を送る。

私の言葉に周りの者たちは「どの口がっ!」と苛立っている。

それでも、ワインをかける手と髪を引っ張る手を止めることが出来た。

私は近くの使用人に声をかけた。


「ねぇ、貴方。ここを掃除してくれないかしら?」


私はワインで濡れた床を指差した。

使用人は私に呼ばれてビクッと肩を震わせたが、すぐに床を拭き始める。

どれだけ床を拭いても、濡れている私がこの場にいては会場が片付かない。

ドレスの替えはないし、私に貸してくれる者もいないだろう。

私はこの場から……この会場から去らなければいけない。

それでも、このまま去っては逃げるだけのように見えてしまう。

慌てているのに、頭の熱だけが冷めているように感じる。