後部座席の窓から、爽やかな風が彼の頬に優しく当たると、彼は読んでいた台本から目を
離し車窓の外に視線を移す……。
 運転席でハンドルを握るマネージャ―が、
 「確かこのあたりだったわよね……あなたの散歩コース。最近は降りないわね……」
 とルームミラー越しに彼に言った。

 「ああ、そうですね。忙しいから、散歩する時間より寝る時間が大事かな?って思って」
 彼がそう答えると、
 「そうね、この仕事、体力があってこそだから。
 あっ、建物の解体工事してるわ。
 粉塵が車内に入るから窓閉めてくれる?」
 「わかりました……」
 彼は、車窓のスイッチボタンを押しながら、解体される建物を切なそうに見つめる。
 彼を乗せた車両は、一気に解体工事中の建物の前を走り去った。

 数年の歳月が流れた……。
 「お誕生日おめでとうございます!」
 大きな花束が彼に手渡され、ワゴンにのせられた特注のケーキが目の前に運ばれてきた。
 「ありがとうございます。今年もこうして、皆さんに
誕生日を祝っていただいて感無量です」
 彼は、深々とお辞儀をした。

 「今年も、彼は安泰です。みんなで彼をどんどん推し上げていきましょう!」
 マネージャ―の声にスタッフも盛り上がる。
 彼女が彼の隣に座ると、スマホを取り出し、
彼にある画像を見せた。

 「ほら、これ……数年前のあなたに似てると思わない?」
 マネージャーに画像を見せられた彼は思わず彼女に聞き返す。
 「これ……は?」
 すると、スマホの画面を見ながら彼女が、
 「この絵画ね、外国の田舎の美術館に展示してあるそうよ。
 偶然、うちのスタッフがSNSで見つけて、あなたに
似てるって言ってきての。
 確かに、似てるわよね。特に目元とか」
 彼は、彼女の手からスマホを受け取ると、しばらくその画像を見つめ、画像を広げた瞬間、
画像に映し出された文字を見て微笑むと、
 「これって……」と呟いた。