「まさか言葉が通じないなんて」
 補佐官チャールズは眼鏡のブリッジをグイっと押しながら溜息をついた。
 
「魔法陣が間違っていたのか?」
「調査中です」
 第一王子レオナルドは優秀な補佐官をジッと見つめる。
 
「討伐隊に加え、治癒能力でメンバーを守ってほしかったのですが、言葉も通じないのでは役に立ちませんね」 
「ルイが討伐に出るのは一ヶ月後だな」
「はい。それまでに聖女の治癒能力が出せて最低限の会話ができれば良いですが」
 まさか言葉からとは思わなかったので、かなり予定が狂ってしまった。
 チャールズは家庭教師を一人追加だと苦笑した。
 
 昔、この国で一番大きな川が干上がったことがあった。
 
 上流でドラゴンが山を崩して巣を作り、川の流れをせき止めていたのだ。
 国は討伐隊を作りドラゴンの討伐に向かったが誰も帰って来なかった。
 
 このまま川の水が無くなったら食糧も作れない、飲み水さえ手に入らない。
 王家は毎日教会の女神に祈りを捧げた。

 すると国王の夢に不思議な魔法陣が現れ、剣と一人の少女が遣わされた。
 
 王子は聖女と共にドラゴンの山へ行き、無事にドラゴンを討伐。 
 王子と聖女は結婚し、水の豊かなオセアン国に戻りました。
 
 この国にはそんな話が残されている。
 今から千年以上前の話だ。
 
 今も剣は王家が所有しており、話は真実なのだと証明している。
 
 古い文献をもとに魔法陣を描き聖女を召喚したが、まさか言葉がわからないとは思わなかった。
 文献には言葉については記載はなかったので通じるものだと思い込んでいたのだ。
 
 昨年からだんだん川の水が減り、今年はもう川の水は半分以下。
 
 偵察隊は上流にドラゴンがいたと言う。
 精鋭を集め討伐隊を作り、王家の剣はルイスに持たせた。
 
 あとは聖女だけだったのに。