自分の手のひらには王宮で転んだ時のかさぶたがある。
 でも、怪我をしていた青年の腕は綺麗になっている。

 私は治癒能力が使えたってこと?
 自分の怪我は治らないのに?
 異世界転移の定番、聖女ってこと?

 お店のおじいさんが腕を怪我したあと、包帯を巻いたら傷がなくてご飯をいっぱい出してくれた。
 そのあとこの教会に連れてこられて、エマの腕にあった大きな傷も気づいた時には目立たなくなっていた。

 腕を布で吊っていたおじさんは、もう動かして平気そうだった。
 まさかみんな怪我が治ったってこと?
 ミサキの足はふらつき、後ろへ下がった。

 もしかして、昨日からここの人達やエマが跪いていたのは、私が聖女だから?
 ウソでしょ?
 ミサキは手で両腕を押さえながら下を向く。

『あの、すみません。聖女様のご気分が優れないようなので、今日は並んでいただいたのにすみません』
『あれだけの傷を治したんだ。聖女様だって疲れるよな』
『あぁ、明日はもっと早く来るぞ』
『俺もだ。絶対早く来る』
 すごかったと話をしながら帰って行く人々。

 1番人気のマリーはエマとミサキの方を見ながらギリッと奥歯を鳴らした。

『大丈夫ですか? 聖女様』
 顔色が悪いミサキを心配したエマが声をかけてくれるが、答える余裕がミサキにはなかった。
 教皇も駆けつけ、ミサキを心配してくれる。

 部屋まで送ってくれたエマと教皇に扉の前でお辞儀した。
 一人にしてくださいと伝わるだろうか?

 そっと自分で扉を開けて中に入る。

『聖女様!』
 ぎこちなくミサキが微笑むと、エマは困った顔で行き場のない手を下した。
 
 部屋に入ったミサキはベッドに座り、ワンピースの裾を捲った。
 両ひざにはかさぶたがある。
 特に一番ひどかった右足の膝は小学生ですか? と聞きたくなるほどやんちゃな足になっている。

 自分の怪我は治らないなんて。
 あのとき自分が治れば、聖女じゃないなんて思わず王宮から出て行こうなんて思わなかったかもしれない。

 ……そんなことはないか。

 ミサキは綺麗な女性と一緒に歩いていたレオナルドを思い出し苦笑した。