昨日は4人しかいなかったエマの列に、今日は12人も並んだ。

『聖女様、野犬に噛まれたそうなのですが、これも治りますか?』
 目を背けたくなるような肉がえぐれた傷の青年がミサキの前へ腕を出す。
 エマがその傷に触れさせようと手を引っ張ったので、ミサキは驚いた。

『えっ? 待って、待って、それ触るの?』
 触ったら痛いでしょ? と少し手を引っ込めるミサキ。
 エマは自分の手を青年の腕の上に触れるフリをしてミサキを見た。

 やっぱりその傷に触れってこと?
 え、でも絶対触ったら痛いよ?
 この人嫌がらない?

 エマと青年の顔を交互に見たあと、ミサキは躊躇いながら青年の腕に手を伸ばした。

 10秒くらい触ればいいってことだよね?
 今まで見たいに。
 そっと触れると青年が痛そうな顔をする。

 ほら、やっぱり痛いじゃん!
 何で触らせてるの?
 困った顔をしながらそっと手を離したミサキは思わず「えっ?」と声を出した。

 ……傷がない。

『ウソでしょ?』
 驚き、目を見開くミサキ。

『さすがです! 聖女様!』
 エマの声をきっかけに、並んでいた人々の「ワッ!」という大歓声が教会内に響き渡った。