『お部屋はこちらです』
 黒いワンピースに白いエプロンという定番のメイドの姿をした母くらいの女性に案内されたミサキは「高級ホテルですか?」と聞きたくなるほど広い部屋に固まった。

『こちらにお召替えを』
『それに着替えるってこと?』
 お互いに言葉は通じないが、侍女が手に持っているのは綺麗な水色のドレス。

 そんなピアノの発表会みたいなドレスは着た事ありません!
 というか、水色って膨張色!

『あの、手伝わなくて大丈夫です』
 パーカーの脱がし方がわからずに困っている侍女にミサキが手を横に振ると、侍女は首を傾げた。

『お召になっているものを脱いで、このドレスを着ます』
『自分で着替えるので大丈夫です』
 ジェスチャーをしたがお互いに全く伝わらない。

 結局、着替えるのが嫌だと思われたのだろう。
 着替えをしないまま、次の部屋へと案内された。

『食事?』
 ナイフとフォークもたくさん並んでいるけれど、マナーなんてわからない。
 外からだっけ? 中からだっけ?
 順番に使うんだよね?
 あぁ、もっとちゃんと母の言う事を聞いておけばよかった。

 ガチャと扉が開き、入室したのはさっきのキラキラ王子と補佐っぽい眼鏡の人。

『なぜ着替えていないのですか?』
 補佐官チャールズが尋ねると、侍女は困った顔をした。