「ミサキはまだ見つからないのか?」
「申し訳ありません」
 夕食の時間になっても戻らないミサキに、レオナルドは溜息をついた。

「俺のせいだ」
「いえ、時間をナタリーに伝えていなかった私のミスです」
 レオナルド様は悪くありませんと言う補佐官チャールズにレオナルドは首を横に振った。

「チャールズ、キャサリンとの婚約破棄を進めてくれ」
「婚約破棄ですか?」
「聖女に対する暴言、侍女への嫌がらせ。王太子妃にはふさわしくないと理由を添えておいてくれ」
 レオナルドは夕食に手を付けることなく、背もたれに身体を埋めた。

「……ご存じだったのですか?」
 侍女へ嫌がらせをしていることに。
 驚いたチャールズが尋ねると、レオナルドは苦笑した。

「少し早めに茶会へ行くと紅茶を引っ掻けられた侍女とよくすれ違った。だがキャサリンは国内でも有力な公爵の娘だ。政略結婚だと諦めていたが」
 
 ミサキは言葉が通じないが、いつも一生懸命で可愛いと思った。
 マナーや常識は無いけれど、不快に思った事は一度もない。
 逆に応援してやりたいと思った。
 
 ミサキが来てからずっと目が離せなくて、最近ではミサキを正妃にしようと思っていたのだとレオナルドが言うと補佐官チャールズは目を見開いた。

「だからあんなに積極的に」
 例え婚約者でも本当に想い合う者同士でなければ頬に口づけなどしないのに、レオナルドは食事で会うたびにミサキにしていた。
 言葉が通じないミサキを口説いていたのだ。

「無事でいてくれ」
 レオナルドが右手で額を押さえながら呟く。
 補佐官チャールズは必ず見つけますと頭を下げた。