『ごちそうさまでした』
 綺麗にペロリと食べてしまったがお礼できるものは何も持っていない。

『私、何か手伝います』
 食器を持って立ち上がるとおばあさんが不思議そうな顔をする。
 ミサキは気にせず厨房の方へ行き、流し台っぽいところまで食器を運んだ。
 スポンジと洗剤は前の世界と変わらない。
 水はこの世界のシャワーみたいにレバーを引けばよさそうだ。
 
 スポンジを取ろうとしたミサキは自分の手のひらの包帯に気がついた。
 シュルシュルと包帯を外し、パーカーのポケットに突っ込む。

『あらあら、そんなことしなくていいのよ』
 おばあさんが驚いた顔をしていたが、ミサキは流しにあった食器をすべて洗い、隣のトレーに置いていった。

 おじいさんは料理を作り、おばあさんは注文、料理運び、会計。
 言葉がわからないミサキができるのは皿洗いだけだ。
 ミサキは帰った客のテーブルの食器を下げ、テーブルを拭き、食器を洗う。

 これってうどん屋でバイトした経験が生かされている!
 ミサキは店が閉まるまで手伝いを続けた。

『夕飯だ。今日はご苦労さん』
『今日は腰が痛くて辛かったから手伝ってくれて助かったわ』
 テーブルの上には三人分の食事。
 夕食までご馳走してくれるみたいだ。

 夕食は生姜焼きのような甘辛のお肉。
 昼のシチューも美味しかったけれど、これもすごく美味しい。
 食べ終わり、食器を洗ったミサキがお辞儀をしてお店を出て行こうとすると、おばあさんはミサキの手を引っ張った。

『今日はもう暗いから泊っていきなさい』
 部屋の片隅に薄い敷物を敷いただけのスペースだったがミサキはありがとうと微笑んだ。
 少し寒い部屋。
 王宮がどれだけ恵まれている環境だったのか今更思い知る。
 ナタリーとニックには迷惑をかけてしまった。
 眼鏡に怒られていないと良いけれど。

 優しいおじいさんとおばあさんのおかげで、今日はごはんも寝るところも確保できた。
 明日からどうしたらいいのだろう。
 行く宛もないし、出来る事も少ない。
 言葉がわからないと働くこともできない。

 本当にどうしよう。
 ミサキは小さくうずくまりながら明日からのことを思い悩んだ。