窓のないその店は食事ができる店。
 テーブルとイスが並ぶこじんまりした店だった。
 
『攫われて逃げ出した子かね?』
 カウンターの奥からおじいさんが水を持ってやってくる。
 ミサキは飲んで良いのか迷ってしまった。

 お金を持っていないんです。って何と言えば良かっただろうか?

「ない、か……かね?」
 お金がないと通じただろうか?
 イスに座ったミサキが困った顔でおじいさんを見上げると、おじいさんはグシャとミサキの頭を撫でた。

 おじいさんは奥へ行ったと思ったらすぐに戻り、ドンッとミサキの前にシチューを出す。

『食え』
『食べていいのよ』
 言葉はわからないが、きっと食べて良いと言ってくれているのだろう。
 包帯を巻いているミサキの手にスプーンを持たせるとおばあさんはニッコリ笑ってくれた。

「いたたきます」
 いただきますと言ったつもりだが通じただろうか?
 
 おじいさんとおばあさんの顔を交互に見た後、ミサキはスプーンをゆっくりシチューの中に。
 もう一度二人の顔を見ると、おじいさんに早く食えと頭をぐしゃぐしゃされた。

 温かいシチューが喉を通るとじわっと心が温かくなる。

「おいしい」
 王宮でおいしいものをたくさん食べさせてもらっていたけれど、このシチューも同じくらいおいしい。

「ありがとう」
 ミサキがお礼を言うと二人は優しく微笑んでくれた。