どうしてレオナルドと結婚できると思ったのだろう?
 ここが異世界だからって私と結婚するとは限らないのに。

 私と王子がつり合うわけないのに。
 どうして自分が聖女だと思い込んだのだろう?
 絵本とは髪の色も違ったし、なによりも言葉すらわからなくて意思疎通もできないのに。

 ミサキはすぐ足元の木の根に引っかかり転んでしまった。

『大丈夫ですか?』
 ナタリーとニックが慌ててしゃがむ。
 ミサキは四つん這いのまましばらく放心状態になった。

 私、こんなところで何をしているのだろう?
 言葉も通じないところで。

 膝も手のひらもジンジンする。
 両膝は擦りむいて血が出ている。
 こんな風に膝を擦りむくなんて小学生以来ではないだろうか?

 ミサキは右手で右膝を押さえた。
 もし私が聖女なら怪我が治るはずだ。

 だが何も変わらない。
 ただ足の血が手についただけ。

 ……聖女じゃない。
 ミサキの目から涙が溢れた。

 聖女じゃない私が王子のレオナルドと結婚できるわけがない。
 私は何を夢見ていたのだろう?
 異世界に行って、聖女の力で世界を救って、王子とハッピーエンド。
 小説のテンプレ通りに行くのだと思っていた。
 
 ……馬鹿みたい。

『ミサキ様、失礼します』
 騎士ニックは動かないミサキを抱き上げると建物へ戻る。
 部屋まで戻ったミサキはソファーに座ったままナタリーの手当てを受けた。
 包帯なんて大袈裟だと思ったが、この世界にはバンドエイドはないのだろう。

『痛みますか?』
 ナタリーが心配そうに声をかけてくれるが答える気にはなれなかった。

『ニック、ミサキ様をお願いします。報告に行ってきます』
「はい」
 ナタリーが出て行ってしまった部屋で、ミサキはグッと下唇を噛んだ。