「夢じゃなかった……」
 ふかふかのベッドで目が覚めたミサキは苦笑した。
 初めての場所なのに平気で熟睡できる自分の神経の図太さもビックリだが、ふかふかベッドの寝心地も驚きだった。
 
「レオナルド、おはようございます」
「ミサキ! おはよう」
 キラキラ王子のレオナルドに挨拶をすると、今日もレオナルドはミサキの頬に口づけをした。
 
 ヨーロッパでは挨拶替わりだろうけど、バリバリ日本人のミサキにはその習慣はない。
 勘違いしてはいけないと思いながらも、王子すぎるレオナルドにそんなことをされては勘違いするに決まっている。

『早くミサキと会話したいよ』
 ミサキの頬を撫で、耳の下を通り、アゴの下に手を添えながらレオナルドは綺麗な青い眼を細めてニッコリ微笑んでくれる。

 惚れてまうやろー!
 こんなことされて落ちない女がいる?

『レオナルド様、ほどほどになさいませ』
 補佐官チャールズの言葉で解放されたミサキは今日もおいしい朝食を頂いたあと、言葉を習いながら王宮内を散策した。

 レオナルドはカッコいい。
 食事の時しか会えないが、いつも頬にキスしてくれて優しく微笑んでくれる。
 
 やっぱり聖女だから?
 異世界転移してきた聖女だから王子と結ばれるってこと?
 まだ言葉しか習っていないけれど、そのうち魔法の練習とかあるのかな?
 魔法陣で呼び出されたのだから、絶対魔法はあるはず。

 早く言葉を覚えて魔法を教わりたいな。と思ったが、それはすぐに挫折した。
 
 小学生から英語の授業を受けていてもペラペラにならなかったように、オウム返しはギリギリできるようになったが自分で考えて話すことは全くできなかった。
 
 一週間経っても単語も思い出せない事が多く、会話なんて程遠い。
 挨拶とイエス、ノーが精一杯。
 
 落ち込むミサキにナタリーは温かい紅茶を差し出した。