『疲れた』
 部屋に戻ったミサキはソファーにボフンと倒れ込んだ。
 
 お腹はいっぱいだが、緊張した。
 イケメンとコース料理なんてハードルが高すぎる。
 しかも言葉が通じないので会話もない。
 はぁーと盛大な溜息をつくミサキに侍女ナタリーは寝間着を差し出した。

『湯浴みに参りましょう』
『わ! シャワーあるの? 嬉しい! 使い方を教えてください』
 ミサキがシャワーを手に取ると、ナタリーは慌てた。

『服を脱いでから水を出します』
 シャワーを戻すナタリーにミサキは首を傾げる。
 もう一度シャワーを手に取ると人のいない方に向け、壁のレバーに触れた。

『それは上……!』
 ナタリーの静止は間に合わず上から水が降ってくる。
 
「ひゃぁ」
 急いでナタリーがレバーを戻してくれたがミサキはずぶ濡れになった。
 
 手に持っているシャワーヘッドから出るのではなく、天井に備え付けられたシャワーから出るとは。
 恐るべし異世界。

『大丈夫ですか?』
 慌ててタオルを差し出してくれるナタリー。
 ミサキは手に持ったシャワーヘッドから水を出したいと手で表現した。
 
『この突起を引きます』
 ミサキが触ったレバーの横にある丸い突起をナタリーが引くとシャワーヘッドから水が出る。
 
『えー。タオル掛けかと思った』
 まさかコレを引くとは思わないでしょ。
 
 ミサキが突起を元に戻すと水は止まり、再び引くと水が出る事を確認した。
 温度調整はなく、水しか出ないようだ。
 冬は寒そう。

『一人で大丈夫』
 自分を指差してから人差し指一本だけ見せる。
 次に両手で丸を作ってもわかってもらえなかったが最終的には一人で入ることができた。
 
『もう寝ていい?』
 ベッドを指差すとナタリーはにっこり微笑んでくれた。
 
 きっとオッケーって事だよね。
 ミサキはふかふかで寝心地の良いベッドに入るとあっという間に眠ってしまった。