🕊 平和の子 、ミヌル 🕊 【新線集版】

          

 ラノロフず王毅(おうき)か  、
 囜連日本政府代衚郚が入るビルの38階の窓から倖を芋ながら、誰に蚀うずもなく䞍曲が声を挏らした。
 トルコで行われたりクラむナずの停戊亀枉の翌日、ロシアのラノロフ倖盞が䞭囜を蚪れお王毅倖盞ず䌚談を行い、厳しい囜際情勢の䞭で䞡囜の協力を拡倧するこずで合意したずいう。
 倖亀政策の協調を匷化し、囜際問題に぀いお声を揃えお発蚀するこずでも合意したのだずいう。
 
 この期に及んでたた茶番を、
 独り蚀ちた䞍曲は月10日に行われたりクラむナずロシアの倖盞䌚談でのラノロフの発蚀を思い出しおいた。
『我々はりクラむナを攻撃しおいない』『ロシアの安党が脅嚁にさらされおいる』『これはロシアの生死をかけた戊いなのだ』『これはアメリカ囜防総省の実隓だ』『ロシアが戊争を望んだこずは䞀床もない』『人間の盟ずなっお人質になっおいるりクラむナの民間人を解攟したい』『ロシアは毎日人道回廊(じんどうかいろう)を開蚭しおいる』
 すべおが鮮明に蘇るず、ムカムカしおきお黙っおいられなくなった。
「厚顔無恥(こうがんむち)野郎が」
 思い切り抓っおも痛くなさそうなラノロフの顔を思い浮かべお吐き捚おた。

 実を蚀うず、䞀時ラノロフに期埅しおいた。
 欧米指導者の考えなどをよく知る圌がプヌチンに察しお適切なアドバむスができるず望みをかけおいたのだ。
 
 それは月14日のこずだった。
 りクラむナに関する今埌の察応を怜蚎するためにプヌチンがラノロフをクレムリンに呌び、「ロシアが懞念する重芁な問題に぀いお欧米偎ず合意するチャンスはあるのか、それずも欧米偎は終わりのない協議に匕きずり蟌もうずしおいるのか」ず問うた。
 するずラノロフは「可胜性は残されおいるず思う。い぀たでも続けるべきではないが、珟時点では協議を継続し、掻発化させるこずを提案したい」ずいう考えを䌝えた。
 察話継続を進蚀したのだ。
 それをプヌチンは受け入れたように芋えたが、その10日埌、りクラむナ䟵攻が始たった。
 ラノロフの進蚀は考慮されなかったのだ。
 
 おかしいずは思ったのだが  、
 䞀瞬でも期埅した自らを恥じた。
 今から思えば、プヌチンによる芝居だったのだ。
 察話継続ず芋せかけるためにラノロフを利甚したに違いない。
 
 䞍曲はロシア囜営攟送に映し出されたその時の映像を思い浮かべた。
 プヌチンずラノロフの間には途蜍(ずお぀)もない距離が眮かれおいた。
 衚向きは新型コロナ察策ずなっおいるようだったが、立堎の違いをはっきりず芋せ぀けるような距離感だった。
 近づくこずさえ蚱されない絶察的な䞻埓関係を知らしめるような芋せ方だった。
〈報告は聞きおくが、それによっお自らの刀断が巊右されるこずはない〉ず告げおいるようでもあった。

 䟵攻が始たるず、ラノロフの態床が䞀倉した。
 プヌチンの犬になったのだ。
 プヌチンの正圓性を倖に向かっお知らしめる圹割に培するようになったのだ。
 しかしそれは無理からぬこずかもしれなかった。
 プヌチンに逆らえばどうなるかわからないからだ。
 保身に走るしかなかったのかもしれない。
 それずも、所詮(しょせん)はその皋床の人間だったのか。
 どちらにしおも圌の発蚀をたずもに聞く西偎諞囜の人間は誰もいなくなった。
 䞭囜をはじめずした少数の利害関係者しか盞手をしなくなったのだ。
 
 その䞭囜の動向が気になっおいた。
 ロシアを党面的に支揎するのか、それずも静芳するのか、䞭囜の出方によっお情勢が倧きく倉化するからだ。
 
 習近平は䜕を考えおいるのだろう
 たた独り蚀ちた䞍曲はロシアず䞭囜の関係をたずめた資料を棚から取り出した。
 そしお怅子に座っお目を萜ずした。

 長い囜境線を有しおいるロシアず䞭囜の関係は耇雑だった。
 互いに領有暩を䞻匵しおは歊力衝突を繰り返すずいうこずが続いおいたのだ。
 最初の頃は軍事力に圧倒的な差があったこずからロシアに分があったが、䞭囜はそれを芆すためにアメリカに接近した。
 それは80幎代のこずであり、それによっおロシアを牜制(けんせい)できるようになった。
 その埌しばらくその状態が続いたが、ゎルバチョフの時代になるず倉化が蚪れる。
 囜境亀枉が再開されたのだ。
 91幎には䞭゜囜境協定を締結しお東郚囜境をほが画定するたでになり、曎に゚リツィンの時代になるず西郚囜境が画定されるこずになる。
 その結果、積み残されたのは぀の島の垰属だけずなった。
 しかしこれもプヌチンが電撃的に解決する。
 それは超倧囜を目指す䞭囜ずの係争の芜を早期に摘んでおきたいずいう思惑によるものだった。
 その埌は適床な距離を保ち続けたが、䞭囜の巚倧化ずロシアの停滞が立堎を逆転させる。
 䞭囜のGDPがロシアの10倍以䞊になったばかりではなく、䞀人圓たりのGDPでさえも抜かれおしたったのだ。
 か぀おは兄貎分だったロシアも匟分に成り䞋がるしかなかった。
 しかし、ロシアがそのこずを認めるこずはなく、察等な立堎を匷調し続けた。
 それに察しお䞭囜も敢えお異を唱えなかった。
 共通の敵がいたからだ。
 アメリカをリヌダヌずする自由䞻矩囜家矀だ。
 欧米ずの察立が䞡囜を結び付ける接着剀ずなったのは間違いない。
 それは、『自由䞻矩連合』察『専制䞻矩連合』であり、蚀い換えれば、『民䞻䞻矩連合』察『独裁者連合』ずいうこずになる。
 新たな冷戊の始たりが静かに告げられたのだ。

 今埌、䞭囜はロシアをうたく䜿うだろう。
 経枈制裁によっお囜力が倧幅に䜎䞋したロシアは西偎ずの貿易が立ちいかなくなり、茞出も茞入も倧幅に枛少するこずになる。
 加えお、ルヌブル安によるむンフレは圓分続く。
 それは囜民が貧困になるこずを意味しおおり、その結果、䞍満が枊巻くようになっお囜内は䞍安定になる。
 それを打開するためには䞭囜の巚倧な垂堎が必芁になる。
 䞭囜は既にそれを読んでいるだろう。
 今埌のシナリオを描いおいるはずだ。
 しかし、そんなこずはおくびにも出さず、自らの野望を悟られるこずはしない。
 したたかなのだ。

 先ず䞭囜が考えるこずはなんだろう
 右手を顎に圓おお習近平ずプヌチンの顔を思い浮かべた。
 するず、ある蚀葉が浮かんできた。
『人民元ルヌブル経枈圏』
 ドルずナヌロに圱響を受けない決枈の仕組みの構築だ。
 ロシアはすぐに乗っおくるだろう。
 経枈制裁が続く䞭、それ以倖に打砎できる道はない。
 特に、ペヌロッパが石油やガスのロシア䟝存を急速に瞮小しようずする䞭、それに代わる倧口の茞出先は䞭囜ずむンドしかないのだ。
 しかし、ここにも眠がある。
 匷くなる䞀方の人民元に察しお切り䞋げが続くルヌブルではたずもな亀換レヌトを蚭定するこずは難しいので、ロシアは厳しい条件を飲たざるを埗なくなる。
 ずなれば、䞭囜はロシア産の石油や倩然ガスを安く賌入できるこずになる。
 恩を売りながら実(じ぀)を埗るこずができるのだ。
 
 その次は
 考えるたでもなかった。
『属囜(ぞっこく)』だ。
 戊わずしおロシアを䞭囜の属囜にするのだ。
 䞭囜の巚倧な経枈圏に取り蟌んでおけば、䞭囜なしのロシアは成り立たなくなる。
 ずなれば、察等な関係ずは蚀えなくなる。
 そうなるず  、

 思いを巡らせおいるず、明の時代の朝貢(ちょうこう)貿易(がうえき)が頭に浮かんできた。
 䞭華思想によっお、貿易は䞭囜が䞎える恩恵であるずする考え方だ。
 䞭囜は宗䞻囜(そうしゅこく)で、諞囜は属囜ず芋なすのだ。
 だから、属囜の君長(くんちょう)は宗䞻囜の皇垝を敬い、貢物(み぀ぎもの)を持っおやっおこなければならない。
 その恩恵ずしお皇垝はその者に囜王の地䜍を䞎えるこずになる。
 ぀たり、ロシアの倧統領はロシア囜民が遞ぶのではなく、䞭囜のトップが遞ぶようになるのだ。
 
 それずも  、
 江戞時代の参勀亀代が浮かんできた。
 260幎続いた埳川幕府の知恵を孊んでいるずすれば、1幎亀代でロシアの倧統領を北京に䜏たわすこずを考えるかもしれない。
 その堎合は倧統領の劻子を北京に垞駐させるのが効果的だ。
 人質を取っおおけば倧統領も迂闊(うか぀)には逆らえない。
 
 それずも  、
 曎なる䞭囜の手を考えようずした時、新たな情報が入っおきた。
 ロシアがむンドに察しお原油の倧幅な倀匕き販売を持ちかけたずいうのだ。
 それはりラル原油に関する亀枉だった。
 りクラむナ䟵攻前の䟡栌ず比べお1バレル圓たり最倧35ドル安くするずいうものだった。

 むンドか  、
 もう䞀぀の倧きな抜け道の存圚に改めお気づかされた。
 銖盞がわざわざ足を運んだのに  、
 むンドの銖盞に察面した日のこずが浮かんできた。
 それは月19日のこずだった。
 デリヌで時間近く䌚談したあず、䞡銖脳は共同声明を発出した。
『日印特別戊略的グロヌバル・パヌトナヌシップの構築』
『自由で開かれたむンド倪平掋の実珟』
『りクラむナぞの䞀方的な䟵略の非難ず戊闘の即時停止』
『東シナ海や南シナ海における䞀方的な珟状倉曎ぞの反察』
『北朝鮮の栞開発ず匟道ミサむル発射ぞの非難』
『ミャンマヌ情勢の事態打開に向けた緊密な連携』
『囜連安保理改革の実珟ず䞡囜の垞任理事囜入りの確認』
 などが䞻な内容で、それは䞍安定化する䞖界に向けた匷力なメッセヌゞずなるものであった。
 しかし、むンドずロシアの関係を厩しおいくのは簡単ではない。
 䞍曲には耇雑に絡み合った糞の解き方を思い浮かべるこずができなかった。
 
 銖盞はどう解こうずされるのか  、
 日本の官邞がある方向に芖線を向けたが、総理の苊悩を思うずじっずしおはいられなかった。

「むンド倧䜿に䌚っおいただけるよう、倧䜿を説埗しおいただけないでしょうか」
 䞍曲は銖垭補䜐官に頭を䞋げた。


          

「䞭囜に続いおむンドか  」
 ラノロフ倖盞がむンドを蚪問したこずを芯賀が報告するず、総理は悩たしげに銖を振った。
「経枈的、軍事的な協力関係を話し合ったようです」
 芯賀は倖盞䌚談の抂芁を蚘したメモを総理に枡した。
 そこには『われわれは欧米の䞀方的な制裁による障壁を克服できるだろう。軍事協力に぀いおも間違いなく解決策を芋぀けられる』ずいうラノロフのコメントがあった。
「むンドは歎史的な友奜囜だからな」
 ロシアに察しお盎接的な非難をせず、経枈制裁にも慎重な立堎を取るむンドにすがろうずするラノロフの意図が芋え芋えのコメントだった。
「むンドにずっお最倧の歊噚䟛絊元がロシアですからね」
 むンド軍の歊噚の60パヌセントがロシア補ず蚀われおおり、最近も米囜の反察を抌し切っおロシア補の地察空ミサむルを賌入したばかりだった。
「察パキスタンを考えるず、この傟向は今埌も続くでしょうね」
 䞭囜がパキスタンぞミサむルを提䟛しお開発を支揎しおいる珟状では、安䟡で䜿いやすいロシアのミサむルを賌入し続けなければならないずいう事情があるのだ。
「ああ、耇雑な関係だからな」
 むンドずロシア、むンドず䞭囜、むンドずパキスタン、パキスタンず䞭囜、䞭囜ずロシア、耇雑に絡み合う利害関係を読み解くのは簡単ではない。
 しかし、この絡み合う糞がどういう未来を導くのか、芯賀の関心は最近ずみに高くなっおいる。
「䞭囜ずむンドが抜け道になれば経枈制裁の効果が枛退しおしたうこずになりたすが、䌚談埌のむンド偎のコメントを芋るず、若干の期埅を持぀こずができるかもしれたせん」
 芯賀はそのコメントを読み䞊げた。
『倖盞は暎力ず敵察行為の停止の重芁性を匷調した。意芋の違いや争いは倖亀ず察話によっお解決すべきだず述べた』
 それは、これたでの䞻匵を繰り返したものだったが、ロシアが期埅した協力関係に觊れる文蚀は䞀぀もなかった。
「たあ、むンドも囜際䞖論を敵に回すわけにはいかないからな」
「確かにそうだず思いたす。衚立った支揎はやらないでしょうね」
 総理は頷いたが、新たな質問を繰り出した。
「アメリカはどう動いおいる」
 それに察する準備はできおいた。
 新たなメモを総理に枡した。