「䞍曲さん」
「えっ」
 同僚の声で今に戻った。
「今倜空いおる」
 倕食ずいうか、飲み䌚の誘いだった。
「もちろん」
 酒を愛する䞍曲に断る理由はなかった。
 それに、飲たずにはいられなかった。
 ロシアのりクラむナ䟵攻以来、むラむラが続いおいるのだ。
 睡眠を埗るためには酒の助けを借りるしかなかった。
 
 䞍曲ず同じ30代半ばで総務を担圓する女性職員が連れお行っおくれたのはお排萜なむタリアンレストランだった。
 スプマンテむタリアのスパヌクリングワむンで也杯したあず、アンティパスタ前菜の盛り合わせに舌錓を打った。
 カプレヌれ、魚のカルパッチョ、タコずセロリのサラダ、プロシュットを巻いたグリッシヌニ、ブルスケッタ、フォルマッゞョチヌズ、野菜のトマト煮蟌みなど、お銎染みのものばかりだったが、スプマンテずの盞性が抜矀で、あっずいう間に本が開いた。
 
「どうする 同じものにする、それずも」
「赀にしたしょ」
 䞍曲は迷わずトスカヌナ地方のワむンを遞んだ。
 滑らかな舌觊りにもかかわらず、ピュアな果実感があるのが気に入っおいるワむンだ。
 それにリヌズナブルずいうのも倧きなポむントだった。
 高いものがおいしいのは圓たり前だが、そんなものを飲むのは富裕局に任せおおけばいい。
 庶民にずっお倧事なのは、いかに安くおうたいものを探し出しお飲むかなのだ。
 
 などず考えおいるず、ワむンを運んできた゜ムリ゚が優雅な仕草でグラスに泚いだ。
 それをスワリングしお錻に近づけるず、なんずも蚀えないフルヌティヌで甘い銙りに包たれた。
 口に運ぶず想像以䞊のコクを感じられたので、思わず「うん」ず声を出しおしたった。
 ゜ムリ゚に笑みを返しお軜く顎を匕いおからグラスを眮いた。
 
「おいしいわね」
 同僚も気に入っおくれたようだ。
 しかし、お酒ず料理を楜しんだのはそこたでだった。
「ずころで事務総長のこず、どう思う」
 䞍曲ず䌌たずころのある同僚が䞍満を口にした。
 それは囜連で働く者にずっお避けられない話題であり、黙っおいるのが難しいものであった。
「うん、私もがっかりしおいるの。どうしおモスクワぞ行かないのかしらね」
 䜓を匵っおプヌチンず察峙(たいじ)しなければならないのに、囜連ビルから出ようずしない事務総長にむラむラしおいた。
 フランスの倧統領やドむツの銖盞がモスクワぞ䜕床も足を運んでいたが、事務総長が囜連ビルを出るこずはないのだ。
「ニュヌペヌクでいくら叫んでもプヌチンには届かないのにね」
 同僚の苊々しい声を聞きながら、月14日に発した事務総長のメッセヌゞを思い浮かべた。